Research Abstract |
1.研究目的:我々の先行研究において,2型糖尿病モデルOLETFラットに回転ケージによる自由運動および70%制限食による食事療法を,それぞれ20週齢から30週齢の10週間に亘って施行した結果,体重減少や糖・脂質代謝の改善程度には両者に差異はなかった。安静対照に比較し,運動および食事療法には糖尿病性腎症(DN)進展抑制効果があるが運動療法の効果は少なく,運動によるDN進展促進と運動を介した糖・脂質代謝改善によるDN進展抑制効果が相殺され,結果的に食事療法の効果に及ばなかったものと思われた。しかし,ヒト糖尿病患者では骨や骨格筋などの廃用性萎縮防止およびQOLの維持という観点からも運動は必須であり,DNを進展させず,しかも体力向上および糖・脂質代謝の改善が得られる運動処方が必要となる。そこで,本研究ではOLETFラットを用い,軽度,中等度および高強度によりそれぞれ10週間運動療法を施行し,腎機能や糖・脂質代謝への影響を調べた。 2.研究方法:被検動物としてOLETFラット36匹(低強度Low群9匹(12m/min),中等度強度Mid群9匹(16.5m/min),高強度High群9匹および安静対照Cont群9匹)および正常対照安静LETOラット(LETO-C群)9匹を用いた。10週齢から実験室で飼育し,24〜33週齢まで各トレッドミル走行速度で1回60分間,週5回の頻度で10週間運動療法を行った。運動療法前・後に,ラット用トレッドミルに敷設したエネルギー代謝測定装置を用い負荷漸増法による最大酸素摂取量(VO2max)の測定および糖負荷試験(OGTT;ブドウ糖1g/kgを胃ゾンデによって経口投与し,眼静脈叢から投与前,30,60,120分後に採血しIRIおよびBS濃度を測定)を行い,運動療法期間中は3週間毎に24時間採尿,血圧,体重(SoftronBP98)測定を行った。尿成分は,電解質類,アルブミン(uAlb)およびクレアチニン(Cr)濃度を測定した。運動療法後の糖負荷試験終了1週間後にネンブタール麻酔下で放血,屠殺し各臓器重量測定後ホルマリン固定し,組織標本を作製した。ヘパリン採血した検体を用い,血液学的成分(RBC,WBC,PLT,Hct)および生化学的成分(TC,TG,HDL-C,Cr,尿酸)を測定した。また,骨格筋組織中の脂質,蛋白,酵素含量等を測定した。 3.研究結果:運動療法期間中の体重はContに比較しMidおよびHigh群の上昇は有意に抑制され,運動療法後のVO2maxも高かった。また,皮下,副睾丸周囲,その他腹部脂肪重量は強度に依存して低値を示した。一方,下肢骨格筋重量(g/kg)はトレーニング強度に依存して重かった。OGTTの結果は療法後Cont群は有意に悪化したが,運動療法3群は療法前と変わらなかった。しかし,強度による差異も認められなかった。血清TC,TG濃度は運動強度が高い群程低値であった。療法期間中のuAlb排泄量は漸増し,Contに比較し運動群は排泄抑制傾向にあったが,3群間に有意差はなかった。療法終了時の腎重量は運動群がContに比較し有意に高値を示した。しかし,平均糸球体容積(GV),メサンギュウム面積(MA)などにはOLETF4群間に差異はなかった。uAlb排泄量と糖負荷後の血糖値との間に有意な関連がみられ,運動療法3群間にuAlbに差がなかったのは糖代謝能改善に差がなかったためと思われた。
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