Research Abstract |
1.研究目的:先行研究で,ヒト糖尿病性腎症(DN)モデルOLETFラットおよび対照LETOラットを用い運動と食事療法を比較した。運動療法によって糖・脂質代謝は食事療法と同レベルまで改善したが,腎肥大やアルブミン尿中排泄量(Ealb)は増加した。この研究の運動量および強度が過剰であったためと思われた。そこで,平成12〜13年度研究では低〜高強度の運動療法を施行し,腎症を悪化させずに体力向上および糖・脂質代謝の改善が期待される運動処方の作成を試みた。 2.研究方法:OLETFラット36匹,対照LETOラット9匹を用い22週齢より小動物用トレッドミルで,低強度(L群;12m/分),中等度(M群;16.5m/分)および高強度(H群;21.5m/分)の走運動を1回60分間,週5回の頻度で10週間行った。運動療法前後に糖負荷試験(OGTT; 2g/kgBW)を行い,療法経過中3週間間隔で体重,血圧および尿量やEalbの動態を観察し,運動療法終了後麻酔下で全量採血後屠殺し,腎および種々の骨格筋を摘出し重量を測った。 3.研究結果:安静対照(Sed)に比較し運動療法群の体重増加は強度に依存して抑制されたが,先行研究の自発走運動(VE)に比較し僅少であった。累積走行距離はSEに比較しL,M,H群は10.8〜18%に過ぎなかった。最大運動時総酸素摂取量(ΣVO2)および運動時間は運動療法後には概ね強度に依存して増加したが,M,H群間に差がなかった。体重,皮下脂肪および内臓周囲脂肪は強度に依存して減少し,筋重量は増加した。糖負荷後の運動療法群の血糖曲線はSed群に比較し有意に低値であったが,運動群3群間には有意差はなかった。血清TCおよびTGは強度依存的に減少し,HDL-Cは増加した。OLETFラット群の運動療法期間中のEalbはLETO群に比較し有意な高値で推移した。OLETFラットのEalbは強度依存的に僅少化したが,Sedを含めた4群間に有意差はなかった。腎重量(g/kg)は強度に依存して高値を示したが,糸球体容積およびメサンギューム面積には3群間に差異はなかった。 4.結果:本研究の運動療法によって,全身持久性能力,体重,皮下および内臓周囲脂肪重量の減少,血清TC,TGおよびHDL-C濃度の改善,および筋重量は運動強度に依存して増加した。しかし,糖代謝の改善は不十分であり,腎重量,Ealbおよび腎糸球体基底膜は強度に依存して増加および肥厚した。糖代謝の改善を期待するには本研究の運動時間では不十分であったことが示唆される。本研究で用いた低〜中等度の強度で,さらに運動持続時間を延長するか,運動の頻度を増すか,あるいは食事制限の併用が望まれる。さらに,DNの進展抑制は脂質代謝の改善よりも糖代謝の改善に大きく依存していることが推測された。
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