Research Abstract |
海産魚類は,n-3系高度不飽和脂肪酸に特異的に富んでいる.これらの脂肪酸には,動脈硬化防止,過剰なアラキドン酸由来のエイコサノイドが原因となる疾病の予防,発ガン抑制など,多くの生理効果が明らかにされ,健康維持の目的から積極的な摂取が望まれている.しかし,これらの高度不飽和脂肪酸は著しく酸化を受けやすいことが知られている.脂質の酸化は,オフフレーバーの生成,栄養価や安全性の低下など様々な保存中の品質の劣化と深く関わっており,魚の品質保持を困難にする原因の一つとなっている.なかでも,漁獲量が多い,いわゆる赤身魚は,脂質含量が高く,価格も比較的安いことから,高度不飽和脂肪酸の供給源としては最適だが,酸化的劣化が特に速い.そこで本研究では,品質劣化が極めて速いため,加工,貯蔵が困難なキビナゴに着目し,キビナゴの冷蔵保存中の酸化的劣化を測定するとともに,その劣化機構を一般によく食用とされ,赤身魚と白身魚の中間的な性質を示すマアジと比較することによって検討した.キビナゴとマアジの脂質過酸化活性を比較すると,マアジでは血合肉のみに顕著な脂質過酸化活性が認められたのに対し,キビナゴでは皮,内臓,普通肉のいずれにもマアジよりも強い活性が認められた.血合肉の脂質過酸化活性は,多量に含まれるミオグロビンなどのヘムタンパク質に由来するものと考えられる.一般に魚を丸のままで保存したときには,皮が最も酸化を起こしやすく,これは皮が体表面にあり空気と接していること,脂質過酸化活性の存在,皮脂質の不安定性など,複数因子の総合的な効果である.キビナゴにおいては皮の脂質過酸化活性が強いことが,キビナゴが小さな魚であることと相まって,冷蔵保存中の速い風味劣化に関与していると示唆された.キビナゴの皮の活性は加熱により容易に失活し,酵素の関与が予測されたが,今後,脂質過酸化因子の分離・精製,酸化生成物の構造解析から酵素が関与しているかどうか検討して行きたい.
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