2001 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本思想史におけるアイデンティティ問題の総合的研究
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13610044
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
津田 雅夫 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (10144099)
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Keywords | 近代日本 / 思想史 / アイデンティティ / 国民文化 / 国民道徳 / 三木清 / 和辻哲郎 |
Research Abstract |
近代日本の思想史をアイデンティティ問題を軸にして検討する作業の第一年度として、まず検討の時期を大正期から昭和前期にかけて、また、対象となる思想家を、とくに三木清と和辻哲郎に絞って取り上げた。二人を取り上げた理由は、彼らの思想原理である「解釈学」の性格にある。大正期に思想形成を遂げた和辻や三木が、解釈学を思想の基本に据えるに至った経緯を考えるとき、従来の理解のように、たんに大正教養主義といった文脈においてではなく、むしろ「アイデンティティ」の問題性を端的に提起することによって、その本質が明確になると考えられる。明治以来の西欧的近代化の歩みは、たえずアイデンティティの不安を生み出しつつ進行したわけであるが、その極点を昭和前期に見ることができる。そして解釈学が、多くの西欧輸入の流行思想の一つに終わるのではなく、それなりに自前の思想として定着したのは、このアイデンティティ要求に応えるものであったことによるところが大きい。このことを明瞭に示しているのが、まさに三木と和辻の場合なのである。 検討の結果、彼らがその解釈学を縦横に駆使して築き上げようとしたのは、近代文化を止揚する国民文化の形成(三木)であり、また、新たな国民道徳の確立への展望(和辻)であった。そしていずれの場合においても、そこに至る道筋として、「批判」の途が提起されており、そのさい、その批判の対象は、崩壊に瀕しつつ近代文化であり、また、時代錯誤の旧国民道徳であった。こうした彼らの目指す文化的・国民的主体の基本性格を比較し、そこに有意味な類似性を見いだした。
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Research Products
(2 results)