2002 Fiscal Year Annual Research Report
注意欠陥多動性障害を早期に発見する心理学的診断法の開発研究
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13610130
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
近藤 文里 滋賀大学, 教育学部, 教授 (00133489)
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Keywords | 注意欠陥多動性障害 / 幼児 / 行動抑制 / 選択的注意 / 実行機能 / プランニング / 行動評定尺度 / DSM-IV |
Research Abstract |
注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断には、日本では米国の精神医学会が定めたDSM-IVが広く用いられている。しかし、文化や風土が異なる日本において、米国で標準化された基準をそのまま日本の子どもに適用するうえでは配慮すべき問題があるのではないかと考えた。 前年度に行なった研究は、ADHDの障害の発現過程が推定できる質問紙(調査1)とともに、ADHDであるか否かの判断を数量化する目的で作られたDuPaul, Power, Anastopoulos, & Reid(1998)の質問紙を行なった(調査2)。調査2の結果では、DuPaulらが米国で教師に行った結果では、5、6歳台の結果では、21.6%がADHDの基準に達したが、日本では8.7%であり大きな結果に違いがみられた。これは文化的、社会的な環境の違いによるものと考えられた(特殊教育学会第40回大会発表論文集)。 本年度の調査は、平成13年度の調査で多動性、衝動性、不注意の次元で高い数値を示し、ADHDの基準に達した幼児を対象に行動抑制とプランニングに関する機能の検査を実施することであった。そこで、対象を絞り込むため、さらに質問紙による2回目の調査を行った。これは平成13年度の調査2で使われたDuPaulらの質問紙と同じものである。なぜ約1年を経過してから再度質問紙調査を実施したかというと、幼児期には不注意、多動性に関してかなり変動性が高く、6か月もすれば、そのような特徴が消失する子どもも認められる、というBarkleyの指摘があるからである。また、今年度は、平成13年度のように教師の評価だけでなく、親にも評価をしてもらい、親と教師の一致度とともに、前回教師に行った調査と今回の調査結果を比較することにした。 これは当初の計画にはなかったのであるが、幼児期の診断法の確立において重要な結果が得られた。この調査に関する主な点は3点である。1点目は、1年前にADHDの基準を満たしていた子どもが今回の調査では該当しなくなる子どもが見られ、幼児期の変動性が確かめられたこと。2点目は、年齢の増加とともに不注意や多動性に関した得点が徐々に低下が見られるものの5歳のところで低下傾向に停滞がみられたことで、5歳には神経学的な脆弱性をもった子どもがとらえやすいこと。3点目は、教師の評価と親の評価には大きな食い違いがみられ、親の評価だけで判断すると対象とした子どもの約半数もの子どもがADHDの基準に達してしまい、ADHDに関する母親の関心と不安を反映したものと考えられた。 現在は、そこでADHDの基準に該当した子どもを中心に、行動観察法と神経心理学的検査(特に実行機能をみる検査)を試験的に実施しており、観察と実験の最終的条件の確定を行っている。
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Research Products
(5 results)
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[Publications] 近藤文里: "幼児期における注意欠陥多動性障害に関する調査"日本特殊教育学会第40回発表論文集. 462 (2002)
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[Publications] 近藤文里: "ADHD児に対する心理学的理解"『障害者問題研究』(全国障害者問題研究発行). 30巻. 12-21 (2002)
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[Publications] 近藤文里: "注意欠陥多動性障害"黒田吉孝, 小松秀茂編『発達障害児の病理と心理』培風館. 113-123 (2002)
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[Publications] 近藤文里: "ADHD児の心理学的理解"『みんなのねがい』(全国障害者問題研究会発行). 428号. 12-15 (2003)
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[Publications] 近藤文里: "幼児期における注意欠陥多動性障害に関する調査(2)"日本特殊教育学会第41回発表論文集. (印刷中). (2003)