2004 Fiscal Year Annual Research Report
エルンスト・ブロッホの美学-その可能性とアポリア-の研究
Project/Area Number |
14310216
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
保坂 一夫 日本大学, 文理学部, 教授 (20074289)
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Keywords | 歴史哲学的美学 / 突然性美学 / 帰国亡命者 / 象徴 / 弁証法 / 弁神論 / アポリア |
Research Abstract |
本年度も、ルートヴィヒスハーフェン市のブロッホ文庫で、エルンスト・ブロッホ自身の哲学ならびに美学に関する資料を閲覧し調査した。本年度目立った新資料は、ブロッホの伝記的研究であった。息子Jan Robertによる数点の父親論(これらには彼のブロッホ哲学に関する誤解が見られるが、後代への悪しき影響を恐れるところである)、元助手のEberhard Braunの伝記的ブロッホ哲学研究、Arno MunsterのErnst Bolch, Eine politische Biograhie、加えて、かつてブロッホを追い出したライプチヒ大学から、シンポジウム報告Ernst Blochs Leipziger Jahreと論文集Denkein ist Uberschreitenが出版されたが、それとは別に、ライプチヒ時代の教え子で作家のZwerenz夫妻がSklavensprache und Revolteで彼らの視点からブロッホとその弟子たちについて証言をまとめている。これが示すように、旧東ドイツのライプチヒでは依然としてブロッホに対するプロとコントラが生きている。しかしブロッホ擁護派の人々には、同時に、ブロッホ批判が表立つ以前、50年代前半の「古きよき時代」の再評価の主張に失われたユートピアへの郷愁が見られる。当時のライプチヒでは「Remigrant」(帰国亡命者)と戦争中ドイツに留まっていた批判派との間に精神的共同体が成立し、生き生きと活動していたのだという。ただ、こうした研究の趨勢は、ブロッホ哲学や美学の理解拡大を意味するものではなく、逆に、ブロッホ哲学や美学が過去のものになりつつあることの表現であると理解するのが正しいようである。ブロッホの直接の「弟子たち」も老いてきたのである。 哲学・美学の問題としては、象徴としての芸術表現ははたして客体的かという古くて新しい問題が改めて意識される。そこで浮上してくるのが、歴史哲学的美学を支える思想構造としての弁証法への疑問である。ブロッホ美学の検証は、最近の突然性美学(ボーラー)からの反措定だけでなく、むしろ、美的表象の極致は否定による抽象でありそれ自体は客体ではないのではないか、という疑念との関連でもなされねばならないが、その際、ネガティヴに弁神論的機能を果たしている弁証法の功罪も合わせて検討されねばならないのである。おそらく、ブロッホ美学のアポリアはそれによって構造的に照明されるものと推論される。
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Research Products
(1 results)