Research Abstract |
今年度は,9月と3月に研究会を開催した。9月は鷲尾が「アルタイ特性と結果表現の類型」,井上(研究分担者・国立国語研究所主任研究員)が「日本語と中国語の受動文」というテーマで,3月は木村が「給の文法化」,ラマールが「中国語の方向詞のカテゴリー化」というテーマで研究発表を行い,意見交換を行った。 このほか,各分担者が今年度行った研究内容は以下の通りである。 木村は,名詞化構文とされる中国語の"的"構文を取り上げ,意味と構造の特徴を明らかにし,さらに日本語の「のだ構文」との対照を通して,デキゴトを概念化したうえで文のなかに取り込む際の日中両言語の意味的・文法的差異と共通点を明らかにし,それらの成果を論文にまとめた。ラマールは,中国南北の方言でアスペクトの面で意味が異なる「動詞+在+場所」構文の研究を行い,歴史的データにも考察を広げ,その研究成果を第3回ヨーロッパ中国語学会で発表した。そのほかに,引き続き空間移動の言語化に関する研究を行い,その成果は第2回中国語文法化国際研究会で発表した。楊は中国語の数量詞に関する構文やそれに関連する構文の機能について分析を進め,その成果を論文にまとめた。論文では,特に「"量詞重畳+(都)+VP"」形式は従来言われている機能ではなく,その状態に対する描写もしくは評価を表すことを主な機能としていることを指摘した。井上は,日本語と中国語の「変化」の表現について分析を行い,論文としてまとめた。その論文では,日本語と中国語の「変化」を叙述する表現の違いについて,「変化」が時間の推移の中でのみ存在しうる,日本語と中国語では時間の推移の意味を含むレベルが異なる,という2つのことが背景となっていることを指摘している。 村上は,今年度も続けてベトナム語の文法化を記述・研究した。特に,方向性の移動動詞や授受動詞,可能動詞の多機能化に関する日・越両語の対照をし,さらに指示表現と代名詞表現の文法化による文と文との関連付けについても分析を行い,その成果を論文としてまとめた。鷲尾は,今年度も引き続き文法化の問題を中心に研究を進め,その一環として西欧諸語と日本語における助動詞の体系を比較した。その結果,西欧諸語における複合時制と上代日本語における完了助動詞の成立過程に重要な平行性が認められることが明らかになり,その成果を論文としてまとめた。星は,チベット語の名詞化接辞,特に「人」を表す接辞-mkhanの文法化について研究を行い,この接辞が環境によって「人」という語彙的な意味を失い,物や空間,属性,状態,あるいは時制や相の表現にまで拡張している様について研究した。生越は,日本語と朝鮮語の自動・受動に関わる諸形式の使用条件について分析を進め,その成果を国際シンポジウムで研究発表した。そこでは,形態の使い分けにおいて関連する要素は両言語とも似ているが,どの要素を優先するかに違いがあることを指摘した。
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