Research Abstract |
近年のわが国の科学研究体制の変化は著しい.また,「地域振興と科学技術」と銘うって展開されている地方自治体や企業,大学,旧国立試験研究諸機関の連携活動も目覚しい。こうした変化は自然諸科学の展開の歴史に照らして妥当なのか否か,特に創造性,先端性,総合性が求められる学術研究にとって国際的な動向と比較し,近年の変化について以下のような検討を行った. (1)これまでの調査してきた企業,大学,旧国立試験研究諸機関の個々の活動や連携活動の主要な特徴を抽出するとともに,それらを政策,国際的な動向,科学や技術の社会的要請など,いくつかの指標によって評価した. (2)その評価の妥当性や正当性について,近年の動向がどのような方向に向いているのか,総合的な検討には不可欠と考えられ当事者や関係者,また研究者からの意見聴取を行った. (3)検討の結果は,かつて「大学化」が問題にされた国立試験研究機関では,基礎から応用へとその研究内容を大きくシフトさせ,場合によっては一企業のラボのような状態にあること,ほとんどの大学がTLOやインキュベーションセンターを設置し,外への研究成果移転体制を確立しているなど,産学連携を柱とする組織改革が進んで居ることが確認された. (4)しかし,その一方で,知的財産権の問題などがからみ,研究発表の自由度が失われるなどの新たな問題が出始め,このことが教育現場にまで混乱をもたらしている場合も見受けられた.これらの問題は,学術のあり方また大学の存在意義を大きく変える可能性をもつ重大な内容を包含するもので,慎重な取り纏めの必要が明らかになった. (5)日本の政府を挙げての戦略研究の推進は,諸外国,とくに欧米の研究者からは,産業分野での新たな覇権争いの可能性をもつものとして懸念が示されており,「共有財産」としての基礎科学がもつ性格とその研究システムについて,慎重な検討が求められている.
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