2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14520013
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
奥田 敦 慶應義塾大学, 総合政策学部, 助教授 (50224150)
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Keywords | イスラーム / 人間観 / 人権観 / イジュティハード / 法の目的 / ダルーリーヤート / シャーティビー / ハッラーク |
Research Abstract |
イスラームの人間観と人権観の双方について、主として現地専門家との意見交換および文献調査から研究を行なった。人間観については、「弱いもの」(たとえば、決めたことを貫き通せない意志の弱さ)、「待てないもの」(たとえば、結果を急ぐさま)という2つの人間把握に加え、「恩を知らないもの」(感謝が長続きしないさま)と「度を越えるもの」(人間としての限度を超えるさま)を加えることができた。イスラームの人権観については、現世に限ってみても、胎児期、幼年期、青年期、壮年期、老年期を通じて人間として守られていることが分かった。また西側で権利とされているものの多くは、イスラーム法においても権利としての裏づけが可能である。ただし、イスラームにおいて教えの万全さは、その実践とは無関係であることも現地調査を通じて確かめられた。ところで教えと実践の乖離を是正する手段の一つとしてイジュティハードの適正な実施があげられる。これについては、その方法の学であるウスール・アル=フィクフ学の歴史的展開と現状について現地調査と文献研究を集中的に行なった。その中でも特にシャーティビーが確立したとされる法の目的論について、「必須にして不可欠な福利/法の目的(ダルーリーヤート)」としての「宗教」「生命」「理性」「子孫」「財産」のイスラーム法上の導き出し方についてシャーティビーの著作から確実な端緒をえた。他の法体系や他の文明圏との間に価値観の共有の可能性を構築する契機としたい。国家主権に収斂する法体系・社会体系が、他の国家の主権もその人民の人権も決して守らないことを立証する出来事が進行中である。米・英を筆頭とする同盟国によるイラク戦争は、人間としての「度を越えた」武力の行使であることを如実に示す。クルアーンの最初の啓示は、放っておくとすぐ度を越えて法を犯し、自分たちこそが一番だと言い張る人間に対して向けられている。そこで下されたのは、決して感情的な宗教的熱狂ではない。学知とその大切さをペンによって教えたのである。こうした学を必要としているのは、どうやらイスラーム世界だけではなさそうである。(なお、研究成果の一部について2002年11月23日開催の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスORF2002にて発表を行なった)
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Research Products
(1 results)