Research Abstract |
目的:HIF(hypoxia inducible factor)-1は脳を含む多くの組織に普遍的に存在し,LDH,アルドラーゼなどの嫌気性解糖系酵素,グルコーストランスポーター,血管内皮成長因子(VEGF),iNOS,ヘムオキシゲナーゼ(HO-1),チロシン水酸化酵素などの遺伝子発現を介して,低酸素刺激に対する生体応答全体を制御していると考えられている.本研究では,脳虚血後にHIF-1を含む種々の転写因子がどの部位でどの時期に活性化されるのかを検討することを目的とした. 材料および方法:Spraigue-Dawleyラットを用い,血管内ナイロン糸法により2時間中大脳動脈閉塞モデルを作成した.虚血脳からDignamらのプロトコールに従い核蛋白の抽出を行い,核蛋白のHRE (hypoxia-responsive enhancer)結合能の変化を,iNOS遺伝子の5-flanking regionに存在するHRE配列を有するオリゴヌクレオチドを用いEMSAにより調べた.また,虚血巣を含む虚血側および対側におけるiNOS発現のタイムコースをRT-PCRにより調べた.さらに,灌流固定脳のパラフィン切片において,iNOSモノクローナル抗体を用いて免疫組織染色を行い,脳内各部位のどのような細胞にiNOS蛋白が発現しているのかを調べた. 結果:虚血1時間後には,虚血中心部およびその周辺でinducible HIF結合能が増加したが,対側での変化は明らかではなかった.しかし,6時間後には,対側においてもinducible HIF-1結合能の増加も認められた.iNOS mRNAの発現は虚血側では6時間後よりみられ,12時間後,24時間後に強い発現が認められた.iNOS蛋白の発現は,虚血巣内の周辺部あるいは血管周囲の円形小型細胞および血管壁に認められ,H-E染色でこの円形小型細胞は血管から浸潤した多核白血球であり,血管壁のiNOS陽性細胞は血管内皮細胞および平滑筋細胞であることが明らかにされた. 考察:局所脳虚血後のiNOS遺伝子の発現は虚血6時間後より虚血巣内の血管および浸潤多核白血球に認められ,多核白血球の浸潤がピークに達する12-24時間後に最大となり,その後低下した.対側でのiNOS発現は明らかではなかった.一方,HIF-1のHRE結合能は虚血巣中心部およびその周囲においては虚血後早期より増加していたが,虚血6時間以降には対側でも増加が認められ,逆に虚血中心部では減少していた.従って,局所脳虚血においてはiNOS,発現のタイムコースと局在は必ずしもHIF-1のHREへの結合能あるいはHIF-1α蛋白の発現とは相関しなかった.
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