Research Abstract |
この研究の目的は,一軸性圧縮と静水圧によって有機導体を高度に圧縮し,常圧とはまったく違う新構造と電子状態を実現してそこに現れる新規電子状態を探索するとともに,有機導体の超伝導などの電子状態の制御と設計を試みることである。今年度は以下のように,バンドが1/4だけ詰まった2次元性の一連の物質について,金属性,超伝導,電荷秩序の相互関係を系統的に調べた。 まずα-(BEDT-TTF)_2CsCd(SCN)_4の金属的に見える状態を磁気抵抗測定とX線構造解析によって調べ,この物質の常圧における電子状態は金属と電荷秩序の中間的性質を持つことを見出した。具体的には,伝導面内でa軸方向への一軸圧縮下では磁気抵抗に明瞭な金属性が見られ,c軸方向への一軸圧縮下では,低温に向かって電気抵抗が急増して絶縁性が顕著になる。また,電気抵抗の温度依存性は,常圧・低温で電荷秩序状態を持つθ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)_4などに似ている。c軸方向圧縮状態では電荷秩序が生じている可能性が高い。この物質の常圧の電子状態は,α-NH_4Hg塩よりは電荷秩序状態に近く,θ-CsZn塩よりは金属状態に近いと推察される。 常圧で電荷秩序をもち1GPaの静水圧下で超伝導となるβ"-(DODHT)_2PF_6の電荷秩序状態から金属・超伝導状態への構造変化をX線構造解析によって調べ,電荷秩序のストライプに直交する方向の移動積分が増大することによって,電荷秩序が不安定となり,やがて金属・超伝導状態が出現したと解釈できることを示した。 このほか,一軸性延伸技法の開発に着手するとともに,ロシアの高圧半導体物理の研究グループとの共同によって4種類の有機導体を20GPaの超高圧まで圧縮し,常温で2端子電気抵抗,熱電能および圧縮率の測定に成功した。またX線回折によって格子定数の圧力依存性を明らかにした。
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