2005 Fiscal Year Annual Research Report
多言語社会における言語教育に関する研究-ベトナム・タイグェン省をフィールドとして
Project/Area Number |
15402049
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Research Institution | UNIVERSITY OF THE RYUKYUS |
Principal Investigator |
村上 呂里 琉球大学, 教育学部, 助教授 (40219910)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梶村 光郎 琉球大学, 教育学部, 教授 (70255016)
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Keywords | 民族語 / 国家語 / 国語(クォツクグー) / 普通語 / 言語権 / 少数民族 / バイリンガル教育 / 近代言語教育史 |
Research Abstract |
本研究は沖縄地域の言語教育史の検証で得た視座をもとに、ベトナム民主共和国およびベトナム社会主義共和国の言語教育史について、第I期1945年〜1954年/独立国家樹立期-国語(クォツクグー)の識字運動と民族語学習権の理念の提起、第II期1954年〜1975年/南北分裂・ベトナム戦争時-少数民族自治区政策に伴う第1次バイリンガル教育の試行とベトナム語の純粋性を守る運動、第III期1976年〜1980年代/南北統一国家確立期-第53-CP号決定の制定と普通語普及、第IV期1990年代以降/ドイモイ政策期-民族の融和の強調と第2次バイリンガル教育の模索、の4期に時期区分し、各々の期における特徴的な動向や議論について通史的に概観した。つぎに通史的概観から浮かびあがってきた2つの論点について個別的考察を加えた。1つは、少数民族地域に見られるバイリンガル(普通語と民族語)教育要求をめぐる葛藤について、北部山岳地域少数民族にインタビュー調査を行い、少数民族自身の言語教育要求の複雑さを描きだした。(1)背景にある民族差別、(2)根底にある言語観の葛藤、(3)市場経済化と「学力問題」と「言語問題」の関わり等の観点から考察を加えた。2つは、ドイモイ期に登場した「国家語」制定の是非をめぐる議論をとりあげた。ベトナムは建国以来レーニンの少数民族言語政策に則り、「国家語」を制定しないという立場に立ってきた。しかしながら、1991年のソ連邦崩壊および市場開放経済政策下におけるベトナム語の機能性の強化に伴い、ベトナム語を「国家語」として制定すべきだとする議論が現れる。ベトナム語を「国家語」とすることで少数民族地域に対するさらなるベトナム語普及を求める議論と、民族平等の質の向上を求め、現時点での「国家語」化は少数民族のさらなる国民教育からの離脱を招きかねないとする議論との葛藤を浮かびあがらせた。
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