2003 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀後半におけるフランス哲学の展開とイギリス思想の導入に関する研究
Project/Area Number |
15520017
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
杉山 直樹 学習院大学, 文学部, 助教授 (50274189)
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Keywords | フランス・スピリチュアリスム / J.S.ミル / 19世紀フランス哲学 / テーヌ |
Research Abstract |
1850年代末から70年代初頭にかけてのフランスで、J.S.ミルの思想がいかに受容されたかについての研究を行った。「フランス・スピリチュアリスム」と呼ばれる系譜が、この時期においてはミル、特にその経験主義的認識論への強い対抗意識において自己を規定し、そのアイデンティティを固めていくという経緯が明らかになった。これまで考察の対象とならなかったこの事実を指摘したことが、本年度における重要な研究成果である。 この屈折した受容は、そのまま当時のフランスにおける思想的な対立を浮き彫りにする。 一方に、ミルの認識論を積極的に評価するテーヌがいる。また19世紀前半にスコットランドの哲学者ハミルトンの思想を翻訳紹介してクーザンのエクレクティスムを批判したペスが、ここでもまたミルの『論理学』の翻訳を行っていること、そしてこれまでその名を挙げられることのなかった重要な翻訳者ならびに紹介者としてカゼルが存在することが指摘される。彼らに共通するのは、ミルを積極的に導入しつつ、クーザン以降のスピリチュアリストを批判していくという態度である。 彼らの反対側には、ラヴェッソン、そしてパリ大学のカロ、ポール・ジャネが配置される。従来、ラヴェッソンと後者二人とは、対立的に捉えられることが多かったが、我々の考察視角からはその対立はごく部分的なものとして理解される。また、ミル的な経験論に対抗するために彼らがビラン哲学に改めて依拠し、そこに「フランス」哲学の主な源泉を求めた経緯が観察された。 こうした構図を描き出すことで、次の世代の哲学者、特にラシュリエ、より下ってはベルクソンの思想が生まれてくる土壌とでも呼ぶべきものが併せて照らし出されることになった。
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