Research Abstract |
聾学校における数学指導の現状と課題に関する調査研究から,聴覚障害児童生徒の数学的思考力が聾学校の数学指導における重要な検討課題となっていながら,教育現場では各聾学校や指導者での工夫で終わっており,研究として積み上げられていないことが明らかとなった.そこで,まず聴覚障害児童生徒の数学的思考力を育成する教材を開発し,実践を通して効果を検討した.教材は,(1)視覚的イメージを持たせる教材(視覚的教材),(2)具体的な体験をさせる教材(体験的教材),(3)具体的な操作が伴う教材(操作的教材),(4)多様な見方・考え方を引き出す教材,(5)コミュニケーションの活性化を図る教材の開発した. 例えば,多様な見方・考え方を引き出す教材と学習活動の言語化について以下述べる. 聴覚障害児童生徒にとって,自分の考えや行動を言語化することは困難であることが言われている.しかし,数学においては,論理的に考えたり,順序立てて考えたりすることが必要であり,そのためには,自分の考えや学習活動を言語化することが必要と考えた.そこで,ここでは,多様な見方・考え方の引き出す教材と学習活動の言語化の効果を検討した.そのために,「直線m上にない点Pを通り,直線mに平行な直線を引く」という「平行線の作図」問題の教材化を検討するとともに,作図操作の文章化とスモールステップの設定を指導の手だてとし,聾学校専攻科において指導実践を行い授業を分析した.その結果,平行線を引くという一見容易に見える課題を多様に解決することで,聴覚障害生徒の多様な見方・考え方を引き出すことができるとともに,今まで学習してきたことを体系的に関連付けることに有効であるとの知見が得られた.また,聴覚障害児童生徒の数学的思考力の育成には,多様な見方・考え方を引き出す教材の活用と数学的活動の文章化が有効な指導の手だてとなるという示唆を得た.
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