Research Abstract |
本研究の目的は(a)K^-+d→π+Λ(Σ)+N,(b)K^-+d→K^++Ξ+Nの反応の解析を行い,終状態におけるΛN-ΣN相互作用(S=-1)およびΞN-ΛΛ-ΛΣ-ΣΣ相互作用(S=-2)の知見を得ようというものであった(Nは核子の略)。今年度は,2年間の準備の成果をふまえ,上記(a),(b)の反応の具体的な解析を行う計画であったが,主にK^-NN-πΣN-πΛN系の数値計算法の開発を行った。このような系へのアプローチには,Bete-Salpeter方程式がしばしば使われる。しかし,この場合,信頼度の高い解析を行うためには,現実的な重陽子波動関数(非相対論),現存する非相対論的なバリオン間相互作用を使用することが欠かせない。このため,従来の3体厳密計算などとの接続のよいBakamjian-Thomas formalismを使った計算法の具体化を進めた。Bakamjian-Thomas formalismは近年,3核子系の計算のために発展させられてきた(Bochumグループ)。宮川は研究協力者であるW.Glockle氏と共同して,これを質量の異なる粒子系KNN-πΣN-πΛN系に拡張する検討を行ってきた。主として,(ア)3体の運動学,(イ)2体相互作用の重心系から任意の系へのboost,(ウ)チャネル組み換え係数の相対論的表現などであるが,(ウ)については,相対論的な影響は小さいと考えられる。従って,(ア),(イ)に関して詳細な検討を行い,KNN-πΣN-πΛN系に固有な点とも関連して,数値計算上の技術的な問題点を解決した。また,上記(b)の反応においても,散乱振幅の相対論的な部分(素過程振幅)と非相対論的な部分(重陽子波動関数やバリオン-バリオン散乱状態)との整合性の問題が重要である。これについては,同時に解析を進めているγ+d→K^++Λ(Σ)+N過程の研究とも関連して,摂動的な場の量子論を基礎にして詳細な検討を行った。以上のように,当初目的とした具体的な数値解析までには至らなかったが,非摂動的な精密計算に欠かせない理論的な諸課題をほぼ解決した。今後の進展につながると考えている。
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