Research Abstract |
本年度は主に,腕神経叢と上肢帯筋の比較解剖学的研究およびニホンザル頚部斜角筋についての観察を行なった. 1.腕神経叢と上肢帯筋の比較解剖学的研究 材料:両生類(オオサンショウウオ,タイガーサラマンダー),ハ虫類(ミズオオトカゲ,グリーンイグアナ),単孔類(カモノハシ,ハリモグラ),有袋類(コアラ,リングテイルポッサム),哺乳類(ネコ,イヌ,ヒト) 結果:哺乳類の腕神経叢は一般的に,根部で背側と腹側の神経束群に大きく二分し,それぞれが別々の経路を通り伸側と屈側に分布している.背側の束は主に腋窩神経と橈骨神経に,腹側の束からは主に正中神経+筋皮神経と尺骨神経が形成される.しかし,単孔類,ハ虫類,両生類と系統が下がるにつれ,(1)伸側の神経は哺乳類のように共通の束を形成せず,屈側を走る神経束から順次独立して分岐する,(2)屈側の束は近位部では分離せず,肘部付近まで1本の神経束にまとまる,という背腹で別の傾向があることがわかった.特に伸側の橈骨神経に相当する神経幹は,ハ虫類・両生類では3種の異なった分節・経路をとる神経束に分離しており,それが哺乳類では1本の橈骨神経幹に統合されていく過程が明らかになった.さらに,上肢帯筋の配列にも系統的に規則的な変化が見られ,運動様式の変化と合わせて,現在神経の走行経路との関連を調査中である. 2.ニホンザルの斜角筋群 結果:ニホンザルの斜角筋群は腕神経叢を挟んで腹側部と背側部に区分できた.前斜角筋に相当する腹側筋への支配枝は腹側横突間筋枝と共同幹を形成し,両筋の近縁性を示唆する.背側の斜角筋群は,停止の位置によりさらに長・短2部に区分できた.いずれも前鋸筋枝からの枝を受け,また長い筋には第2,3肋間神経の外側皮枝の枝が入るなど,頚部体壁筋として認識されるヒト斜角筋と異なり,ニホンザル背側斜角筋群は上肢帯筋由来の筋の関与が大きいことが明らかとなった.
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