2015 Fiscal Year Annual Research Report
ジェンダー視点に立つ「新しい世界史」の構想と「市民教養」としての構築・発信
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15H01858
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
三成 美保 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (60202347)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 眞里子 三重大学, 人文学部, 名誉教授 (00185513)
粟屋 利江 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (00201905)
村上 薫 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター中東研究グループ, 主任研究員 (00466062)
小浜 正子 日本大学, 文理学部, 教授 (10304560)
香川 檀 武蔵大学, 人文学部, 教授 (10386352)
鈴木 則子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (20335475)
橋本 伸也 関西学院大学, 文学部, 教授 (30212137)
長 志珠絵 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (30271399)
桃木 至朗 大阪大学, 文学研究科, 教授 (40182183)
成田 龍一 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (60189214)
久留島 典子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (70143534)
羽場 久美子 青山学院大学, 国際政治経済学部, 教授 (70147007)
井野瀬 久美惠 甲南大学, 文学部, 教授 (70203271)
姫岡 とし子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (80206581)
永原 陽子 京都大学, 文学研究科, 教授 (90172551)
富永 智津子 宮城学院女子大学, キリスト教文化研究所, 研究員 (90217547)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ジェンダー / 世界史 / 歴史教育 / セクシュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、計画通り、近現代史を中心にセクシュアリティ・家族の問題に焦点をあてて取り組んだ。10月研究会では『性から読む中国史』(S.マン箸、小浜他監訳)の合評会を行い、ヨーロッパやイスラームと比較した。3月13日には、公開シンポジウム「セクシュアリティの歴史学」(大阪大学中之島センター)を開催した。同シンポジウムでは、「インドにおけるLGBT研究」(午前)でLGBTI研究に関してヨーロッパやアフリカとの比較を含めて検討を行い、「戦場の性をめぐって(ミュールホイザー箸、姫岡監訳『戦場の性』合評会)」(午後)ではロシア史と朝鮮史の立場からの批評を加えて、活発な議論を得た。そのほか、「身体と医療」「宗教と家族」などについても全体研究会及び地域別研究会においてゲストスピーカーを交えて議論を行った。 今後につながる大きな成果が、日本学術会議公開シンポジウム「歴史教育の明日を探るー『授業・教科書・入試』改革に向けて」(8月1日)である。同シンポジウムでは、本研究会が共催として関わり、本研究会から6名の報告者・コメンテーターを出した。ジェンダー視点からの教科書書き換え案、高校歴史教育の現場からの声、教材としての「慰安婦」問題などを具体的に提示した。学術会議として「慰安婦」問題を正面から取り上げたのは今回シンポジウムが最初であり、意義が高い。同成果は『学術の動向』21巻5号(2016年5月)で公表された。 研究会メンバーによってもジェンダー史やセクシュアリティに関する多くの業績が公表された。上述2点の翻訳書のほか、三成編著『同性愛をめぐる歴史と法』、小浜編著『ジェンダーの中国史』、桃木編著『教育が開く新しい歴史学』などが代表的成果である。『性から読む中国史』『同性愛をめぐる歴史と法』は大手新聞全国紙でも取り上げられた。また、多くのメンバーが国際学会で報告を行い、成果を海外に発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、研究は順調に進行している。当初計画は、「18-20世紀」史とテーマ通史として「身体・生殖・セクシュアリティ」「家族・家・親族」を検討し、ジェンダー史の教材開発進めること、及び、その成果を随時公開シンポジウムや研究会公式WEBサイト(比較ジェンダー史研究会)において公表することであった。実際には、全体研究会と地域別部会を平行して開催し、公開シンポジウムを2件(1件は主催、1件は共催)開催した。主催公開シンポジウムは「セクシュアリティの歴史学」であり、共催シンポジウムは歴史教育方法論を具体的に検討する学術会議ジェンダー史分科会主催「歴史教育の明日を探る」である。 世界史的視点からセクシュアリティを捉え直すと、植民地主義や人・モノの移動、法政策(家族政策・人口政策・治安政策など)と身体・性(性愛・生殖)が深く関わっていることがわかり、今後前近代研究を含めて類型化を図る手がかりを得た。また、医療史・科学史の視点から比較すると、宗教規範や身体観を反映して、産科術や性病等のあり方が大きく異なることも示唆された。 比較ジェンダー史研究会WEBサイトでは、頻繁に情報を発信・更新しており(サイトの新着情報やアーカイブを参照)、利用者は多数にのぼっている。2014年9月末からサイト閲覧者の統計を行いはじめたが、2016年5月の1年8ヶ月ほどで総閲覧数は25万件を超え、一日平均閲覧数は750件に達し、その数は増大傾向にある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、昨年度の成果を継承して、以下の課題を設定している。 (1)シンポジウムの主催・共催。①公開シンポジウムの共催(ジェンダー法学会シンポジウム「戦時性暴力と法」2016年12月6日)。同シンポジウムには、本研究会から4名が趣旨説明・コメンテーターとして参加予定である。②学術会議公開シンポジウム「教育におけるLGBTIの権利保障」(2016年5月21日)の共催。③同「雇用と労働におけるLGBTIの権利保障(仮)」(12月頃)の共催。④研究会主催として公開シンポジウムを1度開催予定である。 (2)2017年度にジェンダー史学会大会シンポジウムにおいて「ジェンダー史教育論(仮)」を企画・主宰することが決定しており、2016年度はそのための準備を行う。これは、当初の研究計画に記していた「中間報告」としての意味をもつ成果公表である。 (3)時代は中・近世(15~17世紀)にまで広げ、テーマ通史としては「共同体・国家」を取り上げる。「身体・セクシュアリティ」の成果をもさらに発展させながら、新しいテーマを発掘する予定である。また、伝統的な歴史概念の吟味については、引き続き、比較ジェンダー史WEBサイトによる情報発信を行う。サイトにはすでに「ジェンダー史の基本概念」の項目を作っているが、これをさらに拡大する計画である。
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