2015 Fiscal Year Annual Research Report
現代美術の保存と修復――その理念・方法・情報のネットワーク構築のために
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15H01871
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡田 温司 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50177044)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 葉子 慶應義塾大学, アート・センター(三田), 教授 (00439225)
青山 勝 大阪成蹊大学, 芸術学部, 准教授 (10319832)
金井 直 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (10456494)
上村 博 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (20232796)
前川 修 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (20300254)
並木 誠士 京都工芸繊維大学, 大学院工芸科学研究科, 教授 (50211446)
池田 祐子 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 主任研究員 (50270492)
平芳 幸浩 京都工芸繊維大学, 美術工芸資料館, 准教授 (50332193)
山下 俊介 京都大学, 宇宙総合学研究ユニット, 特定助教 (50444451)
篠原 資明 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60135499)
塚田 全彦 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 准教授 (60265204)
藤本 かおり (田口かおり) 東北芸術工科大学, 文化財保存修復研究センター, ポストドクター (60739986)
石谷 治寛 甲南大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70411311)
加治屋 健司 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 准教授 (70453214)
橋本 梓 独立行政法人国立美術館国立国際美術館, その他部局等, 研究員(移行) (70524073)
桝田 倫広 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, その他部局等, 研究員 (70600881)
秋庭 史典 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (80252401)
池野 絢子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員 (80748393)
牧口 千夏 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 主任研究員 (90443465)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 現代美術 / 保存・修復 / タイム・ベイスド・メディア / アーカイヴ化 / オーセンティシティ / ドクイメンテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度としてまず、7月19日(日)に研究分担者が京都大学に集まり、課題と役割分担を再確認するとともに、今後の方針や課題を協議した。さらにここで、本科件の成果や情報を報告するホームページを開設することが決定され、主に石谷と池野がその任に当たることになった。 加治屋は本務校で進行中の古橋悌二《LOVERS》の修復プロジェクトについて、「メディアアートの生と転生」と題してシンポジウムを行った。青山は、訳書トルボットの『自然の鉛筆』の出版に合わせて、写真家の畠山直哉氏とトルボット研究の世界的権威マイケル・グレイ氏を招聘し、写真の保存と修復をめぐるシンポジウムを、牧口の協力の下、今日と国立近代美術館にて企画・開催した。田口は、ヘルシンキ現代美術館保存修復センターにて作品調査を行い、複合的な素材から構成される現代美術の保存と修復の実態について、各関係者と意見・情報を交換した。並木は台湾の台北での調査を行い、各美術館における収蔵施設、展示方法等について意見の交換をした。金井は、ヴェネツィアやシドニー、リヨンのビエンナーレにおいて、主に彫刻作品と映像作品のオーセンティシティと再展示・改変の問題について実地調査を行った。 また、現代美術作品の保存・修復の第一人者であるイタリア国際修復期間副会長でヴェナリア国立修復研究所教授のアントニオ・ラーヴァ氏を招聘し、京都国立博物館(12月24日)と東京都現代美術館(12月26日)において、具体的な作品を前にして、キュレーター、修復家、研究者を交えたワークショップを開催した。この実践的でかつ理論的でもある企画の実現には、池田、牧口、金井、田口が尽力し、有意義なディスカッションを含めて大きな成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各分担者の研究課題はおおむね順調な滑り出しを見せている。また、開かれた情報の公開と交換という目的のもと、当科研のホームページが主に石谷と池野の尽力によって開かれ意味も小さくはない(ただし守秘義務の生じる事項に関してはパスワードによる処置を行っている)。 とりわけ現代美術の保存・修復において今日大きな問題となっているタイム・ベースド・メディアやエフェメラルな素材、パフォーマンス・アート等については、主に加治屋、橋本、金井、池田が、写真や映像については、前川、青山、牧口が、展示やアーカイヴの問題については、並木、秋庭、山下が理論的でかつ実践的な考察を深めている。森と田口、枡田と塚田は、実際の修復の事例や作例を踏まえたうえで、ドキュメンテーションという保存・修復にとってもっとも重要なテーマのひとつに取り組んでいる。そして、これらの理論的基盤となる現代美術の美学的考察については、篠原と上村が支えていくという体制が整いつつある。 さらに、現代美術作品の保存・修復の第一人者であるイタリア国際修復期間副会長でヴェナリア国立修復研究所教授のアントニオ・ラーヴァ氏を招聘し、京都国立博物館(12月24日)と東京都現代美術館(12月26日)において、具体的な現代美術の作品を前にして、キュレーター、修復家、研究者を交えたワークショップを開催できたことの意義は大きい。とりわけ、タイム・ベースド・メディアやエフェメラルな素材について、ラーヴァ氏とわれわれ分担者と協力者、さらに一般の参加者も交えて活発な議論が交わされた。また時間は前後するが、12月14日に来日中の著名な美術史家キース・モクシー氏による「マチエールと時間性」についての講演会を開催し、保存・修復ともリンクするこのテーマをめぐって議論できたことも有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
特に来年度に向けては、以下の4点が主たる方針となる。 1.ホームページのさらなる充実化。 2.分担者等による海外の美術館、保存・修復研究所における調査のさらなる進行。とりわけ、これまでまだ実施されていないドイツ語圏での調査が必要となる。 3.コンテンポラリーアートの保存・修復をめぐる美学的な考察。これに関しては、第一人者であるイタリアのローマ大学の二人の教授、パオロ・ダンジェロとジュゼッ・パテッラを招聘し、一般聴取に開かれた講演会と、分担者・協力者によるディスカッションの二つを計画している(9月末の予定)。美学的な理論的考察の深化は、本研究にとって必要不可欠なものである。 4.目下第一線で活躍するアーティストを招いて、彼らが保存や修復についてどのような考え方をもっているのかを聴き、ディスカッションする機会を設ける。できれば、それぞれメデョウムの異なるアーティストが望ましい。たとえばペインティング、エフェメラルな素材、メディア・アートなどである。これも3と同様、本研究がぜひとも取り組まなければならない課題である。修復家、研究者、キュレーターのみならず、一般市民にも開かれたかたちでのシンポジウムを開催したい。
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