2016 Fiscal Year Annual Research Report
情報蛋白質のリン酸化による細胞記憶の新たな分子機構
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15H02394
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐甲 靖志 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 主任研究員 (20215700)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日比野 佳代 国立遺伝学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (40435673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 細胞情報・動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞内情報処理蛋白質の多重リン酸化を利用した新たな細胞記憶の形成・保持機構を研究し、その分子機構に由来する細胞個性の発現や遺伝的変異による発病の理解を目指している。動物細胞の持つリン酸化酵素RAFは、細胞内情報処理ネットワークの要となる反応要素である。我々は最近、細胞内のRAF分子の平均構造が細胞ごとに異なっており、それが増殖因子に対する細胞ごとのRAFの応答性の違いと強く相関していること、さらに、RAFの構造分布が、分子内の複数のアミノ酸残基のリン酸化の組み合わせによって制御されていることを示す実験結果を得た。この結果は、各々の細胞が経験してきたリン酸化酵素活性化の履歴がRAF分子に埋込まれ、細胞応答を決定していることを示唆している。この現象の実態と意義を解明することが目標である。 RAFの構造は、両端にGFPとTMR-Halo tagを結合したプローブ分子を用いて、末端間のFRET信号変化によって検出可能である。本年度はリン酸化によるRAFの構造制御機構を明らかにするため、2重変異体を含む野生型・リン酸化変異体プローブ8種類の細胞内FRET計測を共焦点蛍光顕微鏡で行い、リン酸化部位間の上下関係や協同性を示す結果を得た。また、細胞内1分子計測法の最適化を行った。さらに、1細胞中の長期的な構造動態を明らかにするための画像処理法を開発した。RAF同様にリン酸化構造制御による活性調節を受けると予想されるAKTのFRETプローブ開発も開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々のこれまでの研究で、RAF分子のS259, S338, S621のリン酸化が構造制御に関わることが分かっている。またY340も活性制御に関わるリン酸化部位と言われている。S621のリン酸化阻害は単独でRAFの構造を開く。S259はRAFの活性を負に、S338, Y340は正に制御するとされる。S338, Y340のリン酸化制御関係を明らかにするため、各々の野生型、アラニン(A)置換(リン酸化阻害)、アスパラギン酸(D)置換(リン酸化模倣)、計8種(準備中のS338A/Y340D 2重変異体を除く単一・2重変異7種)のプローブを作成し、HeLa細胞内に発現させて、野生型でRAFの活性化をもたらすEGF刺激の前後の1細胞FRET計測を行った。いずれのプローブもS621A変異とは異なり、細胞毎にかなり広いFRET効率(すなわちRAF分子の平均構造)の分布が観測された。以下、野生型を-/-, S338D/Y340AをD/Aのように記述する。EGF添加前の-/-を基準として細胞間分布を議論すると、-/-はEGFによりS621Aほどではないが開構造へ偏る。D/D, D/-は無刺激でも開構造を持ち、EGFによる変化は見られない。-/Dはやや開構造へ変位しており、EGFでさらに開く。これらの結果は正の制御と言われるリン酸化が開構造への変化をもたらし、S338のリン酸化(pS338)はpY340よりも大きな効果を持つことを示唆する。一方、A/A, -/Aは野生型と同様の構造・EGF応答性を示し、S338, Y340 (及びS621)のリン酸化以外の、EGF応答に関わる因子の存在が予想される。A/-, D/Aの挙動は複雑であり、無刺激状態で-/-と同程度、及び大きく開いた平均構造をもつ2種の細胞集団が観測されたが、どちらの集団の構造もEGFに応答しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
S338, Y340による複雑な構造制御とEGF応答性が明らかになってきたが、今後、構造分布に加えて、EGF依存的な細胞内局在変化、下流の信号応答などを計測することが必要である。MEK, ERKなどRAF下流分子の活性化(リン酸化)を計測する上で、内在性の野生型RAF分子の存在が問題となるため、ゲノム編集によって内在性のRAF(CRAF)を破壊した細胞を樹立した。今後はこの細胞を用いて、生化学計測を行う。また、変位導入部位以外のリン酸化がどのように変動しているかを計測する。同一変異体が示す細胞毎の平均構造の違いがどのようにして生まれるのか、細胞内1分子計測法による分子間の構造分布計測とともに、1細胞長期観測システムを使って、平均構造がどのように変動するか、外部操作によって平均構造を転位させられるかを検討する。 リン酸化構造制御による細胞応答制御機構の一般性を明らかにすることも重要である。AKTのFRETプローブは他グループによる報告があり、長期間・高精度計測を可能にするための色素改変を行っている。プローブ分子がEGFに応答した細胞内局在変化を示すことまでは確認された。今後FRET計測とリン酸化変位プローブの作成を行う。
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Research Products
(13 results)