2017 Fiscal Year Annual Research Report
干潟生態系のかく乱と生物遷移:干潟の物理場・生物の時空間シミュレーション解析
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15H02456
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
鬼倉 徳雄 九州大学, 農学研究院, 准教授 (50403936)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
皆川 朋子 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (10355828)
伊豫岡 宏樹 福岡大学, 工学部, 助教 (40432869)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 干潟 / 生物遷移 / かく乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、干潟の生物相、生物群集の遷移と出水時の土砂供給に伴う生態系かく乱との関連性を解明することである。ダム撤去、ダム通砂事業によって、土砂供給量が確実に増加し、大きなかく乱を見込める熊本県球磨川と宮崎県耳川の河口域、ならびに小規模河川流入しかないため、かく乱がほとんどなく、生物遷移が極相(安定)状態に近い津屋崎干潟を対象に、「物理場のかく乱の質、量、頻度」と「生物分布」の「時空間的変化」を追跡する。そして、「両者の関連性の解析」と仮想出水(過去10年程度の出水履歴)を当てはめた「シミュレーション解析」の結果に基づき、健全な干潟生態系の維持・再生のための土砂管理の在り方を提案する。 平成29年度も、ダム撤去に伴う大きなかく乱を見込める球磨川河口域の約150地点で、出水期後の秋、非出水期後の春の2回の調査(ベントス、底質粒度、塩分、水温)を実施した。また、ドローンを使った空撮の連続撮影画像を3D処理して、標高モデルを作成した。加えて、安定水域である福岡県の津屋崎干潟で、象徴種であるカブトガニの資源量調査、環境DNAを使った産卵場調査を行った。 球磨川河口域について、調査開始からこれまでのトレンドを評価したところ、ダム撤去事業中、コンクリート堤体の一部を貫通させ、堤体からの流水システムを開始した後の出水期後に、干潟の砂質化が起こり、砂質を好む種の出現範囲が広まったことを確認できた。その後は、出水規模が小さいことに起因すると思われる干潟の泥質化に伴い、生物の遷移が進む傾向をとらえることができた。津屋崎干潟においては、環境DNA技術を使ったカブトガニ産卵場調査手法が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生態系のかく乱を想定した調査地である球磨川河口域においては、生物調査も物理場の調査も順調に行えており、データの蓄積が十分に行えている。また、これまでのデータを使ったトレンド解析においても、ダム撤去後の土砂供給による生態系かく乱とその後の生物遷移が捉えられていることを確認できている。 また、今後、ダム通砂により攪乱が起こることが想定されている耳川河口域については、28年度までの調査結果をベースに29年度に解析を行い、指標生物のモデル構築から河床変動等のシミュレーション解析を終え、それに生物分布モデルを当てはめ、仮想出水に対する指標種の生息適地を推定可能となった。そして、その結果は、すでに学術論文として公表済みである。 また、新規の取り組みである津屋崎干潟におけるカブトガニについても、概ね、調査のための技術が開発できた。特に、環境DNA手法を用いた産卵場調査など、新規的な手法構築も行えている点は、想定以上の研究の進捗と判断できる。 ただし、現在、干潟生態系のかく乱を見込んでいる球磨川河口域において、生物遷移が進み、生物相の極相に近づきつつある状況にある。新年度、比較的規模の大きい規模の出水が発生し、新たな生態系かく乱が起こることを期待している。そうすると、本研究成果はさらに充実するものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
球磨川河口域では、平成29年度までの調査で、生物、物理場ともに十分な情報が得られている。最終年度である今年は、球磨川河口域では、秋季のみの調査とし、主にシミュレーション解析などを中心とする。まず、平成24年からの蓄積されたデータを使った生物群集解析により、かく乱強度の強かった場所と年度を特定し、強度の強かった場所の生物相の遷移を整理するとともに、各遷移段階の指標種を特定する。そして、指標生物の生息適地モデルを使って(前年度までに構築したモデルを使用する予定。ただし、指標種解析で他の種が選ばれた場合、生息適地モデルは再構築する)、それらを河床変動計算結果に当てはめて、耳川と同様に、仮想出水に対する指標生物の生息適地を推定する。 ただし、比較的規模の大きい出水が起こった場合は、かく乱直後の生態系の状態を再把握するため、出水後1か月以内に、生物、物理場の調査を実施する。 干潟生態系における生物遷移の極相に近い津屋崎干潟においては、象徴種であるカブトガニの調査およびヘナタリ類などの腹足類の調査を実施する。また、この干潟で最も大きなかく乱要素である潮汐による土砂の動きをシミュレーションするための物理場の調査を実施する。具体的には、空撮画像の3D処理によるDEMデータ作成と大潮時の潮流調査を実施し、大潮時の潮流をターゲットとしたシミュレーション解析を実施する。 なお、干潟には多様な種が生息し、分類学的な課題を残す種も多く認められるため、そういった種(特に、希少種を多く含む腹足類など)についてはミトコンドリアDNA解析を行い、DNAデータベースを構築する。
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