2015 Fiscal Year Annual Research Report
越境ヘイズの影響を受けるマレーシアPM2.5の性状・発生源・健康リスクの総合評価
Project/Area Number |
15H02589
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東野 達 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80135607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀田 貴之 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (50398426)
松井 康人 京都大学, 安全科学センター, 准教授 (50533501)
高野 裕久 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60281698)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 泥炭火災 / エアロゾル / バイオマス燃焼 / 発生源寄与率 / 環境影響 / PM2.5 |
Outline of Annual Research Achievements |
東南アジアにおけるPM2.5の発生源は自動車や産業に加えてバイオマス燃焼の存在が特徴的で、特に乾季インドネシアの泥炭火災に伴うヘイズは、自国のみならずマレーシアなどの周辺諸国に深刻な越境汚染を招来している。マレーシアのPM2.5は国内発生源とインドネシア泥炭火災エアロゾルなどの越境汚染源の寄与が混在しているが影響に関わる定量評価はなく、発生源プロファイル及びヘイズに固有な指標成分を明らかにし、各発生源寄与率を推定することが強く求められている。
H27年度は、インドネシアの研究協力者の助力でスマトラ島の泥炭火災発生源におけるPM2.5試料を捕集し、PM2.5質量分析, 炭素分析 (有機炭素と元素状炭素), イオン分析, 元素分析 (XRF,ICP-MS)を行った。また、以前に得た泥炭火災発生源試料の分析から泥炭火災指標成分としてリグニン熱分解化合物であるシリンガ酸とバニリン酸の濃度比が有効であることを見いだした。
マレーシアでは1年間の長期にわたるPM2.5試料の捕集をマレーシアの研究協力者とともに開始した。一方、本プロジェクト開始前にマレーシアの集中観測で得たPM試料の分析から、有機炭素中のOPとOC4成分の濃度比が泥炭火災の影響が軽微でも、観測点のリセプターにおいて発生源固有の指標となることをインドネシアの発生源における観測結果とあわせて世界で初めて明らかにした。さらに、マレーシアの研究協力者が2001年から1年間に及ぶ長期観測により得ていたPM2.5試料の提供を受け、含炭素成分、イオン成分、有機成分等の総合的な分析を行い、その年間変動の特性を明らかにした。特にバイオマス燃焼由来の有機化合物を対象としたマレーシアにおける報告例は従来皆無である。また、PM2.5質量濃度に対する泥炭火災発生源の寄与率を統計モデルから推定し、モンスーン時期の違いによって支配的な発生源が異なることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インドネシア泥炭火災PM2.5の性状特性と発生源指標の課題では、インドネシアの研究協力者の助力を得てスマトラ島の泥炭火災発生源において計画通り20程度のPM2.5試料を捕集し、主要な分析を終えた。指標成分の候補となるバイオマーカーなどの有機化合物の分析は準備中であるが、比較のため以前に得た試料の分析から、泥炭火災特有の新規発生源指標を得た。一方、泥炭火災エアロゾル性状特性の熱分解温度依存性を解明するための室内実験システムを設計し、セッティングがほぼ完了した。
マレーシアPM2.5の性状特性解明と発生源推定について、マレーシア国民大学の協力の下、クアラルンプールにおいてPM2.5試料のサンプリングを開始した。1年間に総数で150程度の試料を得てその化学分析を行い、統計モデルによる発生源推定を計画通り行う。なお、無機、有機成分の包括的分析は次年度に予定しているが、問題点抽出と比較のため、マレーシアの研究協力者が2011~2012年に捕集していた約80のPM2.5試料の提供を受けて、含炭素成分、イオン成分、有機化合物の分析を行い、その年間変動特性と新規な泥炭火災指標を明らかにし、統計モデルを用いてPM2.5質量濃度に占める泥炭火災の寄与率推定を行った。また、家屋内でのPM2.5濃度を把握するために、クアラルンプールにおける一般4家庭において、室内での粒子成分を分級捕集した。同時に家屋の築年数などの情報もアンケート調査し、ほぼ予定通り進んでいる。
健康影響に大きく関わることが予想される多環芳香族炭化水素類(PAHs)とその誘導体、また発生源指標としてのアルカンの分析は、試料数が多数に及ぶため効率性の向上が必要である。そこで、PAHsとアルカンの同時分析を可能とする抽出法の検討を行い、次年度分析への適用性を確認した。なお、PM2.5試料の細胞影響については、試料捕集と分析が継続中であるため、試料の抽出、暴露法について検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
捕集したインドネシア・スマトラ島泥炭火災近傍のPM2.5のGC-MSによる有機化合物分析より、提案した発生源の固有指標の有効性の確認と新たな指標の探索を行う。室内実験により、泥炭試料の熱分解温度と生成するPMの物理化学的特性(指標も含む)との関係から発生源プロファイルを明らかにし、生成過程の考察と実試料の燃焼状態を推定する。
マレーシア・クアラルンプールにおける1年間のPM2.5試料に対してPM2.5質量濃度、無機・有機成分の包括的分析を行い、年間変動特性とその要因を解明し、泥炭火災PM2.5試料の分析結果とあわせて、既に得た新規な固有指標の有効性や新規指標の開発に取り組む。また、泥炭火災発生源におけるPAH及びその誘導体分析ともあわせて、変質過程の検討を行う。以上の結果を踏まえて統計モデルにより発生源寄与率を同定する。マレーシアにおける一般家庭での屋内及び野外でのPMサンプリングの継続と分析を行うとともに、家屋の築年数や生活形態のアンケート調査を実施し、屋内外の濃度差の要因について考察し、生活パターンに応じたPM2.5暴露評価の基礎データを得る。
捕集した実試料や室内実験で作成した試料を用いて、呼吸器や免疫系細胞などに対する影響度を評価し、化学分析結果より得た多種の化学成分との関係を統計的に検定し、影響度が有意な成分を特定する。その成果と発生源寄与率、生活パターンに応じたPM2.5暴露評価の基礎データから、マレーシアにおける発生源別のリスク評価を行う。
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Research Products
(13 results)