2016 Fiscal Year Annual Research Report
越境ヘイズの影響を受けるマレーシアPM2.5の性状・発生源・健康リスクの総合評価
Project/Area Number |
15H02589
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東野 達 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80135607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀田 貴之 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (50398426)
松井 康人 京都大学, 環境安全保健機構, 准教授 (50533501)
高野 裕久 京都大学, 工学研究科, 教授 (60281698)
藤井 佑介 埼玉県環境科学国際センター, 大気環境担当, 技師 (90780099)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 泥炭火災 / エアロゾル / バイオマス燃焼 / 環境影響 / マレーシア / インドネシア / 発生源寄与率 |
Outline of Annual Research Achievements |
マレーシアのクアラルンプールにおいて、2015年6月から1年間の捕集により得たPM2.5試料について質量濃度、含炭素成分、イオン成分、金属、一般的バイオマス燃焼由来有機化合物の総合的な分析を行い、PM2.5日平均質量濃度の全期間平均は38μg/m3であったが、9月~10月の乾季に泥炭火災の影響を受けて200μg/m3を超える日が認められた。含炭素成分、イオン成分、バイオマス燃焼由来有機化合物の年間変動特性は、前年度解析を行った1年間のPM2.5試料と同様なパターンを示し、泥炭火災の特徴が明らかとなった。なお、Ca、Fe濃度とPM2.5質量濃度との明確な相関は得られなかったが、高値を示す時期が認められた。また、前年度提案した含炭素分画成分比を用いた泥炭火災指標の有効性を今回の試料についても確認した。PAH(多環芳香族炭化水素)及びその誘導体濃度を、別途マレーシアで採取したTSP(総浮遊粒子状物質)について分析を行い、窒素や酸素のPAH誘導体の3種類で泥炭火災の影響を受けた期間に濃度上昇が認められた。
得られた化学成分濃度データを用い、統計モデルにより泥炭火災を含む6つの発生源が同定されたが、他のバイオマーカー分析結果を導入して再検討を行う。
年間のPM2.5試料を組み合わせて、すべて液濃度が一定になるよう調整した水溶性ならびに脂溶性抽出液を準備し、ヒト気道上皮細胞に暴露して24時間後に細胞活性を測定した。水溶性抽出液、脂溶性抽出液のそれぞれの対照群に対する各群の差について検定を行い、一部水溶性抽出液には細胞活性抑制作用が認められたが、脂溶性抽出液は細胞障害性を示さなかった。また、泥炭火災の影響を受けたヘイズと非ヘイズ時期で明確な傾向の違いは認められなかった。よって、一部の水溶性抽出液には、細胞活性の低下を介して、呼吸器疾患の悪化に関与しうる成分が含まれることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マレーシア・クアラルンプールで2015年6月~2016年5月に実施したPM2.5試料の採取は、ポンプ等のトラブルにより捕集できない期間があったが、ヘイズ時期も含めて統計解析可能な139試料を得た。また、含炭素成分、イオン成分、一般的バイオマス燃焼由来有機化合物の化学分析も終了し、泥炭火災の固有指標の検討に必要なリグニン由来成分等の分析を残すだけとなっている。マレーシアPM2.5の発生源同定・寄与率は得られた成分で検討を行い、2つの泥炭火災発生源が同定されたが、今後の化学分析結果を導入して精度の向上を図る。なお、泥炭火災土壌の熱分解室内実験は、検疫関係の申請・審査等に時間を要し年度内の実験に至らず、次年度に行うこととした。
計画通りPM2.5中の一年を通した金属元素濃度が得られたことから、次年度には、ヘイズ時期に高値を示す元素に対して、これら元素の室内/室外の比を求める。これにより、一定のシナリオ下におけるヒトへの曝露量と元素の摂取量が推算でき、リスク評価に繋がることが期待できる。
PM2.5試料の細胞暴露実験・評価は、ヒト気道上皮細胞を用いた検討を終え、次年度骨髄由来抗原提示細胞への暴露実験により、水溶性及び脂溶性成分の影響とPM2.5化学組成から、呼吸器疾患の悪化に寄与する成分同定に繋がると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)インドネシア泥炭火災とマレーシアPM2.5性状特性の解明:入手したインドネシア泥炭土壌について、電気炉を用いた室内実験により発生させたエアロゾル性状特性の燃焼(熱分解)温度依存性を明らかにし、固有指標成分を検討する。さらに、泥炭火災発生源試料およびマレーシアで通年捕集したPM2.5試料に対するリグニン熱分解物質の定量を行い、ソース (泥炭火災)・リセプター (マレーシア) 間の泥炭火災由来PM2.5の性状特性と変質過程の解明を試みる。また、PAH及びそのN, O, Clの誘導体成分の同定と生成過程の検討を引き続いて行う。 2)マレーシアPM2.5の健康リスク評価:マレーシア一般家庭における、PM2.5および浮遊粒子状物質の室内濃度/室外濃度比(IO比)を求め、行動シナリオに応じた呼吸器への曝露濃度を推算し、リスク評価を実施する。そのために、クアラルンプール周辺にて一般家庭を選定し、各家屋内でのサンプリングと外気のサンプリングを実施し、重量濃度とこれに含まれる主要元素濃度をICP-MSにて定量する。 3)PM2.5のin vitro健康影響評価:前年度までに得た試料を用いて、免疫応答の開始細胞である骨髄由来抗原提示細胞にPM2.5抽出物を曝露し、細胞表面マーカーの発現や細胞活性等を測定し、呼吸器疾患の悪化に寄与するPM2.5成分を同定する。 4)マレーシアPM2.5の発生源同定:本研究で定量された化学成分群のデータセットにリセプターモデルを適用し、マレーシアにおけるPM2.5発生源同定・寄与率の推定を行い、特に泥炭火災による影響を評価する。また、1)~3)を総合して、マレーシアにおけるPM2.5の発生源別の健康影響寄与率を推定する。
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[Journal Article] Comprehensive assessment of PM2.5 physicochemical properties during the Southeast Asia dry season (southwest monsoon)2016
Author(s)
M.F. Khan, N.A. Sulong, M.T. Latif, M.S.M. Nadzir, N. Amil, D.F.M. Hussain, V. Lee, P.N. Hosaini, S. Shaharom, N.A.Y.M. Yusoff, H.M.S. Hoque, J.X. Chung, M. Sahani, N.M. Tahir, L. Juneng, K.N.A. Maulud, S.M.S. Abdullah, Y. Fujii, S. Tohno and A. Mizohata
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Journal Title
Journal of Geophysical Research - Atmospheres
Volume: 121
Pages: 14589-14611
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] The effect of the south-westerly monsoon on the compositions and sources of fine particulate matter in a Southeast Asian urban location2017
Author(s)
M.F. Khan, M.T. Latif, M.S.M. Nadzir, M. Sahani, N.M. Tahir, K.N.A. Maulud, S.M.S. Abdullah, Y. Fujii, S. Tohno and A. Mizohata
Organizer
3rd International Conference on Environmental Pollution, Restoration, and Management
Place of Presentation
Quy Nhon (Vietnam)
Year and Date
2017-03-06 – 2017-03-10
Int'l Joint Research
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