2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H02804
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中川 書子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70360899)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野口 泉 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 環境・地質研究本部 企画調整部, 企画課長 (10442617)
柴田 英昭 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (70281798)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ガス状亜硝酸 / 三酸素同位体組成 / 窒素同位体組成 / 窒素酸化物 / 都市大気 / 森林大気 |
Outline of Annual Research Achievements |
HONOのΔ17O値は、大気中のHONOを炭酸カリウム含浸フィルターに捕集した上でNO2-として抽出し、それをN2OやO2に変換して定量した。しかし、この方法では捕集期間が長くなると、フィルター上でNO2-とH2Oとの間で酸素交換が進み、Δ17O値が低下する可能性がある。そこで本研究では、HONO捕集条件の検討を行うための集中観測を札幌市内にある北海道立総合研究機構の環境科学研究センターの屋上で行った。HONOの捕集期間は半日, 1日, 2日, 3日, 4日, 1週間, 2週間と変えて観測を行い、捕集期間が長くなるにつれΔ17O値が低くならないかを確認した。抽出したNO2-はアジ化水素と反応させてN2Oに変換し、さらに熱分解によってO2に変換した上で、質量分析計に導入してΔ17O値を定量した。また、フィルター上のNO2-の一部がO3と反応してNO3-になることによってNO2-の回収率が下がることが考えられることから、NO2-とNO3-の濃度はイオンクロマトグラフ法で定量し、フィルター上のNO2-の回収率(NO2-とNO3-の濃度の和に対するNO2-の割合)を評価した。 捕集フィルター上のNO2-の回収率は、4 L/minで吸引した場合は平均78%程度であったのに対し、流量が10 L/minで吸引した場合は、NO2-回収率が平均で95%以上であった。このことから、流速を上げることによって、NO2-がO3と反応する時間が短くなり、NO3-の生成量をおさえることができることがわかった。大気中のHONOのΔ17O値は、捕集期間が長くなるにつれて0に近づいていく傾向は見られなかったことから、少なくとも2週間程度までの捕集期間では、捕集中のフィルター上のNO2-とH2Oとの間で酸素交換はほとんど起こっていないことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標は、HONOの同位体組成(Δ17O値、δ18O値とδ15N値)分析法の開発を行うことであり、その目標は概ね達成されたと考えられる。その方法は、HONOの濃度観測用に野口らが開発したフィルターパック法と中川らが開発した高感度分析手法を組み合わせたものであるが、その際、起こり得る2つの問題[(1)フィルター上に捕集されたNO2-のO原子と、同じくフィルター上に捕集されたH2OのO原子の一部が同位体交換してしまう問題、(2)捕集したNO2-の一部がオゾン(O3)と反応してNO3-になり、NO2-の回収率が下がる問題]を克服する最適な捕集条件を決定することができた。(1)については、アルカリ性の炭酸カリウム含浸フィルターを使用したことで、NO2-とH2OのO原子の同位体交換が抑えられ、2週間程度までの捕集期間では酸素交換はほとんど起こっていないことが確認できた。(2)については、流速を10 L/minまで上げることで、捕集したNO2-とO3との反応が抑制されることが確認できた。新しく開発した方法を使って、都市大気(札幌)の定期観測も実現でき、当初の目標以上の成果が得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 観測・試料採取 (1) 都市大気:都市大気中のHONOの発生源としては、自動車排ガスや燃焼を伴う暖房等からの直接排出が考えられる。また、粒子状物質などの固相表面で進行する大気中のNO2と水分子の不均一反応に代表される二次生成も重要と考えられている。そこで、本研究では、都市大気中のHONOが主に二次生成に由来するものなのか、Δ17O値を使って検証することに重点を置いた観測を進める。観測場所は、札幌市(北海道環境科学研究センター)と名古屋市(名古屋大学)で行う。観測は1年間を通じて、1ヶ月に1回程度(フィルターへの総捕集時間は1週間)の頻度で行う。また、日中と夜間の差異の有無を確認するため、日中のみおよび夜間のみ、吸引ポンプを動かす観測も行う。 (2) 森林大気:都市域から離れると、自動車排ガスや燃焼を伴う暖房等の直接排出の影響は小さくなると考えられる。このため、都市域から離れた一般大気中に存在するHONOの大部分は二次生成由来であると考えられてきた。しかし、最近、土壌中の微生物活動によってHONOが活発に生成されているとの報告もある。このような仮説を同位体組成から検証することに重点を置いた観測を、都市から離れた天塩演習林(北海道天塩郡幌延町字問寒別)で行う。 2. 濃度分析・同位体分析・データ解析 フィルターパック(FP)法で捕集されたHONOを含めた窒素酸化物などの濃度をイオンクロマトグラフ法により定量する。連続フロー型の三酸素同位体組成(Δ17O)定量システムを用いて、採取・抽出したHONOのΔ17O値を定量する。HONOのΔ17O値から大気中のHONOに占める二次生成由来のHONOの割合を算出し、①都市域と森林、②季節、③昼夜、の異同に特に重点を置いて解析を進める。HONOやそれ以外の窒素酸化物濃度およびO3濃度等のデータと比較し、HONOの生成過程について考察する。
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Research Products
(7 results)