2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15H02950
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Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
山内 章 桃山学院大学, 国際教養学部, 研究員 (90174573)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 重光 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究員 (20509822)
山内 朝夫 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究員 (80416304)
木曽 太郎 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究主任 (90416313)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 膠 / 同定 / タンパク質 / 油脂 / 遺伝子 / 原料 / 調製 / 用途 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、膠の動物種を同定する方法を調べた。本年度は膠のアミノ酸組成を指標することで、ある程度の動物種を簡便に特定できることがわかった。前年度で確立した油脂の脂肪酸組成を基にした同定法と、膠中に残渣として存在する細胞器官のミトコンドリアDNAを指標としたPCRによる同定法を併用することで、未知の動物種を同定する手順が整った。さらに膠に含まれている元素について同位体の存在比を調べることも行った。 一方、膠の物性評価についても今年度進めたが、ゲル融点とゼリー強度の相関直線から動物種の同定だけでなく、ゼリー強度を規格化した膠を調製できることがわかった。ゼリー強度を合わせた種類の異なる膠サンプルについて、木材に対する接着力や粘弾性を測定比較できる準備ができた。 同定法の確認と選定を行うには予め動物種が明確な膠を用いる必要がある。平成28年度では前年度入手できなかった生皮のウサギ皮を入手し、薬品類を使用せず乾燥皮を作り、それを原料として膠の調製を行った。 伝統的美術工芸技術の各種用途に適した膠の動物種と性質については、温湿度環境が厳しい山間部に立地した社寺建造物彩色と屋内の建造物彩色の制作と修復および、板・絹・和紙に金箔を押す仕事に適した膠について調査と実地試験を行った。建造物彩色では粘度が高く且つゼリー強度が低い膠がおおむね使い良いことがわかった。金箔押しは作業室内の気温と膠の粘度の兼ね合いが要点であることがわかったが、不明点が多いため次年度に研究を継続する。 また、カビの繁殖を抑制する天然素材と膠の性質と用途について研究するため、膠彩色のカビ害が著しい亜熱帯環境の台湾において曝露試験を開始し継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動物種の同定につては分析法の選定を平成27年度と28年度に行うことを計画していたが、概要に示す通り同定手順のスキームもできている。未知種からの同定については詳細な同定作業ができなかったが、数サンプルの膠についてはアミノ酸組成を指標した粗い同定を行っている。 一方、膠の物性評価については、測定サンプルの調製を統一する必要があるが、重量比だけでなくゲル融点あるいはゼリー強度で合わせることが可能とわかった。これにより、従来のJIS規格を参考とする接着試験や粘弾性測定を行える準備が整ったといえる。 動物種の同定に使用する膠の調製については、ウサギ膠(商品名)を国内外で多用してきた現下において、ウサギ皮からウサギ膠を調製できたことは大きな進展である。 膠の性質と用途については、膠彩色の制作と修復に適した膠の性質はおおむね明らかになってきたが、金箔押しや木製品の接着に用いる膠の動物種と性質についての研究は次年度に継続する。 以上のことから、当初の計画はおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
従来の計画通り、「膠原料の動物種の同定」と「物性評価」を進める。今後は、研究代表者が主体となって調製した既知の動物種の膠に加えて、未知種の市販膠を対象に分析する。「動物種の同定」は、これまで立ち上げてきた分析法を用い、遊離アミノ酸組成や油分含量(脂肪酸組成)を指標とした同定の他、PCR等による方法で同定を試みる。 一方、「膠の物性評価」については、ゲル融点測定や木材に対する接着力、粘弾性の物性評価を行うことで、動物種による物性の違いを調べる。これらの研究は、主に研究分担者3名が並行して実験を進め、得られた結果を随時照らし合わせることで、本研究の目的「動物種と物性の対応付け」を明確にしていく。なお、対応付けについては次年度まで継続して進める。 膠の用途については、伝統的技法の金箔押しならびに美術工芸品の木製部材の接着に適した膠の動物種・物性・使用濃度を、主に実地試験によって見極める。このため、金箔押しは切金作家に、美術工芸品の接着は伝世木製品を管理する保存科学者と修復技術者に研究協力者として本研究に加わっていただく。 また、膠主体の天然素材の研究では、平成28年度に着手したカビの繁殖を抑制する天然素材の研究を継続する。更に、抗菌効果と保存安定性について研究発表した竹酢液と桐油を含む膠接着剤について、膠接着剤の油の分離を防ぐ方法を研究する。 以上の研究を総括し、平成30年度に予定している各用途に向けた膠の調製と歴史的資料への応用に展開できる成果を上げる。
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Research Products
(1 results)