2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H02950
|
Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
山内 章 桃山学院大学, 国際教養学部, 研究員 (90174573)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 重光 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究員 (20509822)
山内 朝夫 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究員 (80416304)
木曽 太郎 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究主任 (90416313)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 古典的膠 / DNA / PCR法 / 安定同位体分析 / 物性評価 / 構造解折 / 析出 / 市販膠 |
Outline of Annual Research Achievements |
【遺伝子に着目した同定】 本研究は不純物であることからこれまであまり注目されてこなかったDNAに着目し、PCR法を中心として膠の原料となる動物種の推定を行ったものである。特に、原料が既知の古典的膠(原料生産から膠の調製に至る全工程で薬品類を使用せず、ウシ皮・シカ皮・ウサギ皮・エゾシカ皮・イノシシ皮・ウサギ皮・ニベの浮き袋を原料として作った膠)を標準試料として利用することによって反応条件等の検討を行い、推定の妥当性を検証し、その上で市販の膠についても原料の推定を試みた。 【膠の安定同位体分析】 ウシとシカ等の系統的に近い分類群同士の分別は、動物の食性や生息範囲等の生態的違いを反映するデータが必要になり、膠自体の同位体組成に着目した。炭素・窒素・酸素・水素の同位体組成を測定したところ、ウシとシカ(エゾシカ)は大きく異なり識別できることが分かった。なお、統計学的な解析から同位体組成の違いについては食性の違いに起因することが示唆された。試料としては100マイクログラム程度であることから、微量な分析が可能であり、重要なツールとして利用できると期待される。 【膠の物性評価:Ⅹ線を利用した固化膠の構造解析】 膠を薄膜状に固化し、低角も含めてⅩ線回折を行ったところ、硬化後の膠がコラーゲン線維の構造を示すことが判明した。さらに、異なる動物種間で、あるいは同じ動物種でも膠の抽出の仕方の違いで構造に差があることが示唆された。 【膠の物性評価:薬品類添加剤の膠に及ぼす影響】 古典的膠以外の市販膠は、膠原料の生産から膠の調製に至る工程で薬品類が添加されているが、明示されていない。近年、膠塗料の塗装表面が白化する事例が複数件認められ、その中に、膠に残留したカルシウム・イオウ・ナトリウム等が塗装表面に析出した可能性のある事例が含まれていた。残留物質が析出する過程と析出後の塗料の劣化等について検討してゆきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
残存DNAを利用した同定の研究を進めるに当たり、条件の研究と標準試料・市販膠の原料確認を行うため、PCR産物の塩基配列を決定した。本研究で作成した膠について標的配列を増幅することに成功し、原料動物に由来するものであることが判明した。従って、DNAによる同定が可能であることが判明し、またその条件を確立することができた。しかしながら、解析が困難な試料もあり、DNA分析の方策を引き続き検討する必要がある。これらの成果を踏まえて、簡便な同定法を確立するためリアルタイムPCRによる融解曲線を同定に利用することとした。その結果、動物種ごとに異なる曲線が得られ、由来する動物種を同定できる可能性が高まった。現在は、曲線のデータを蓄積し、深層学習を行うためのデータを構築しているところである。また、市販試料についてもDNAの分析が可能であることが判明し、DNAを利用した同定の意義が再確認された。 DNA分析は、近縁種を誤って判別する可能性が考えられる。従って、遺伝的な情報と独立した、安定同位体分析(炭素・窒素・酸素・水素)を標準試料及び市販膠について行った。その結果、特に食性の違いを反映して、近縁種を分離することができた。この安定同位体分析は、膠原料動物種の同定に有効なツールになる。 膠の物性に関しては、これまでゲル融点等を測定してきた。これらの物性の差異が生じる分子論的要因を解明するため、Ⅹ線を利用した固化膠の構造解析を行った。その結果、抽出の仕方や動物種によって構造に差が出ることが示された。 膠からカルシウム・イオウ・ナトリウム等を検出し、原料生産や調製時に添加された薬品類が膠に残留している可能性が高いことを把握した。合成樹脂を配合しない膠塗料で彩色した塗装面が白化する問題を解決する上で大きな手掛かりを得た。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進んでいると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
従来の計画通り、「膠原料の動物種の同定」と「物性評価」を進める。膠原料の動物種の同定については、①DNAに着目しPCR法を中心とした膠原料動物種推定の方法に進展が見られたので、30年度は深層学習に基づいたプログラムを構築しソフトの制作を目指す。②DNAの分析が適さない試料が存在することも判明し、コラーゲンの酵素分解産物を質量分析する方法の同定への適応について引き続き検討する。物性評価については、①ゲル融点の違いなどが生じる原因に迫るため、Ⅹ線等を利用した分子構造に基づく研究を進める。②その上で、分子論的観点から、動物種による物性の違いの要因を浮かび上がらせるよう努める。 歴史的資料の膠原料の動物種の同定については、①仏像彫刻等の修理時に採取された使用年代が明らかな膠や、彩色の制作年代が明らかで且つ未修理の彩色資料について、これまで立ち上げてきた同定方法(PCR法を中心とした動物種の推定や安定同位体分析等)を試みる。②歴史的資料に相応しい分析方法を探る。③韓国において歴史的資料の調査と採取を行う。 各種膠の性質と用途に関する実地試験は、①絵具の固着力と発色及び木製部材接着に適した膠の動物種・物性・使用濃度を見極める。②28年度より継続するカビの繁殖を抑制する天然素材の研究を進める。 研究成果や進捗状況は自主企画による公開研究会や関連する学会で速報する。また、ある程度成果がまとまった段階で原著論文及び学会にて報告し公の意見を仰ぐ。その他、海外で研究成果を積極的に公表するとともに膠の情報収集を行う。
|
Remarks |
歴史的な膠の原料動物種の分析において、長野県小布施町平松家所蔵の江戸時代後期の絵具メディウムについて複数の分析を試みた。その結果、予想に反して膠ではなくアラビアゴムであったことが判明した。このメディウムの所蔵者平松葛斎が葛飾北斎の弟子であったことから、北斎の絵画について新しい視点を向けるものとして2018年4月17日にプレス発表を行い、テレビや新聞等で取り上げられたことを特記事項として明記する。
|
Research Products
(1 results)