2015 Fiscal Year Annual Research Report
セントラルコマンド発現機構の探索-大脳辺縁系皮質から筋血管に至る神経回路の同定
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15H03061
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松川 寛二 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 教授 (90165788)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丹 信介 山口大学, 教育学部, 教授 (00179920)
小峰 秀彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 自動車ヒューマンファクター研究センター, 研究センター長 (10392614)
川真田 聖一 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 教授 (30127641)
定本 朋子 日本女子体育大学, 体育学部, 教授 (30201528)
長尾 正崇 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 教授 (80227991)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 随意運動 / 運動の精神イメージ / 筋交感神経と筋血流量 / セントラルコマンドの発現 / 中枢神経性循環調節 / 大脳皮質前頭前野 / コリン作動性交感神経 / 免疫組織化学染色 |
Outline of Annual Research Achievements |
高次中枢から下降する中枢コマンドは随意運動開始時に活動筋および非活動筋への血流量を増加させる。この筋血流量の変化を指標として、大脳皮質から筋血管に至る中枢コマンドに関わる神経回路を同定するために、実験動物およびヒトを用いた研究計画を考案した。
1. 実験動物を用いた研究: 大脳前頭前野・帯状回・島皮質の活動は脳幹-特に中脳腹側被蓋野(VTA)-に在る神経回路を駆動し中枢コマンドを発生させると考えた。この作業仮説を調べるために、レーザー血流計プローブをVTA近傍に置きVTA組織血流量を記録しながら、島皮質の電気刺激や化学刺激を行った。この島皮質刺激はVTA血流量を増加させた。また、除脳動物の自発運動の開始に先行して、VTA血流量は増加した。これらの所見は大脳皮質辺縁系からVTAへ至る神経回路が中枢コマンド発生と関連することを示唆した。
2. ヒトを用いた研究: 大脳皮質前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb)を近赤外分光法(NIRS)を用いて計測した。Oxy-Hbは組織血流量を反映し間接的に脳活動と対応する。前頭前野Oxy-Hbは自発運動開始に先行して増加したが、声かけで運動を突然始めた場合にはOxy-Hb増加が観察されなかった。次に、前頭葉および頭頂葉における脳活動の時空間パターンを調べたところ、前頭前野外側部から自発運動に先行した興奮活動は出現したが、頭頂葉の運動野や運動関連領域の活動は運動開始と同時に増加した。それ故、脳活動の領域差が存在し、特に前頭前野の脳活動は見込み的な中枢コマンドを体現すると思われる。しかしながら、NIRSは皮質表層の脳活動を反映するので、大脳皮質深層や脳幹の脳活動を次年度で計測する必要がある。そのためMRI用非磁性体材料を用いた運動負荷装置を試作した。筋血管のコリン作動性交感神経に関してヒト骨格筋標本のアセチルコリントランスポーター免疫組織染色を試みたが、残念ながら明瞭な陽性染色像をまだ得ていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 実験動物を用いた研究: 大脳前頭前野・帯状回・島皮質の活動は脳幹-特に中脳腹側被蓋野(VTA)-にある神経回路を駆動し中枢コマンドを発生させるという作業仮説を検証するために、VTA血流量に対する島皮質刺激効果ならびに除脳動物の自発運動時のVTA血流量応答を解析した。得られた実験結果は作業仮説を支持する成果であり、得られた研究成果に基づき現在英語論文を執筆中である。引き続いて、大脳前頭前野や帯状回からVTAへ至る神経回路を探索する予定である。一方、VTAから筋血管への下降路の探索は残された課題であり、VTA化学刺激に伴う脳幹の興奮部位をc-Fos核蛋白の発現を利用して調べる予定である。
2. ヒトを用いた研究: 近赤外分光法(NIRS)を用いて前頭葉および頭頂葉における脳活動を調べた。その結果、前頭前野外側部から自発運動に先行した興奮活動は出現したが、頭頂葉の運動野や運動関連領域の活動は前頭前野の活動よりも遅れて運動開始と同時に増加した。随意運動開始に伴い起る脳活動には領域差が存在し、特に前頭前野の脳活動が見込み的な中枢コマンドを体現すると思われる。この新しい研究成果に基づいて、現在英語論文を執筆中である。しかしながら、NIRSは皮質表層の脳活動のみを反映するので、大脳皮質深層や脳幹の脳活動は不明である。そのため、functional-MRIを用いて大脳皮質深層や脳幹の脳活動を解析する予定である。筋血管のコリン作動性交感神経に関して、筋標本のアセチルコリントランスポーター免疫組織染色を試みた。残念ながら明瞭な陽性染色像をまだ得ていない。ヒト筋血管のコリン作動性交感神経の同定は残された重要課題であり、アセチルコリントランスポーター以外の様々なアセチルコリン系抗体に対する免疫組織染色を試みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 実験動物を用いた研究: 大脳島皮質・前頭前野・帯状回からVTAへ至る神経回路の探索をVTA血流量の変化のみならず電気生理学的にVTAニューロン活動の記録を用いて推進する必要がある。VTAから筋血管への下降路の探索は残された課題であり、VTA化学刺激に伴う脳幹の興奮部位をc-Fos核蛋白の発現を利用して探索しなければならない。しかしながら、これらの動物実験は麻酔状態や除脳状態で実施される実験である。将来的に最も重要なことは、健常動物の覚醒状態で大脳皮質辺縁系からVTAそして筋血管へ至る神経回路の動態を調べることである。もしこのような研究が実現できれば、動物実験とヒトの研究から得られた研究成果を重ね合せることができる。
2. ヒトを用いた研究: 今後の研究を大きく進捗させるためには、マルチ技術を用いたアプローチが必要である。特に、NIRSは皮質表層の脳活動のみを反映するので、大脳皮質深層や脳幹の脳活動をfunctional-MRIを用いて解析しなければならない。また、実験室内で得られる生理情報はバイアスを受けている可能性があり、全く無拘束な状態で日常生活時の随意運動を実施しその際にみられる大脳皮質活動を解析することが大切である。更に、我々が行ってる生理学的研究からヒト筋血管におけるコリン作動性交感神経の存在は明らかであるが、その解剖学的な証明は残された重要課題である。今後、アセチルコリントランスポーター以外の様々なアセチルコリン系抗体に対する免疫組織染色を試みたい。
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Research Products
(15 results)