2017 Fiscal Year Annual Research Report
近世における前期国学のネットワーク形成と文化・社会の展開に関する学際的研究
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15H03242
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
根岸 茂夫 國學院大學, 文学部, 教授 (30208285)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一戸 渉 慶應義塾大学, 斯道文庫(三田), 准教授 (20597736)
古相 正美 中村学園大学, 教育学部, 教授 (30268966)
岩橋 清美 国文学研究資料館, 古典籍共同研究事業センター, 特任准教授 (50749653)
白石 愛 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (60431839)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本史 / 国文学 / 国学 / 神道学 / 法制史 / 荷田春満 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、本年度は定例研究会を月1回開催し、荷田春満の弟信名が執筆した日記の講読を行った。また各研究者が交互に発表を行い、京都出張や各人の研究の成果を発表して、相互の意見交換の場として活用した。また、享保~元文期の信名日記を研究者間で割り当て、日記中に登場する人名・書籍名・寺院名を抽出して各項目をデータ化する作業を継続して行った。 京都出張は2017年8月および2018年2月の2回行い、京都市東丸神社において東羽倉家文書を調査し、伏見稲荷大社において 西羽倉家文書を調査した。ことに東羽倉家日記史料の網羅的な撮影を行い、近世および明治22年までの日記史料に関しては、ほぼ撮影が終了した。併せて、神道関連史料・和歌関連史料などからネットワーク研究の推進に必要な史料を優先的に撮影し、翻刻を現地にて実践した。さらに春満の日本語学・語彙関係史料の再検討を推し進め、断片的ながら、これまで知られることのなかった近世の東国方言に関する音韻史料を昨年に続き発見することができた。 また『伊勢物語童子問』の紙背文書から、春満と享保期の上方漢学者との交流を突き止めた前回までの成果を活かし、中井甃庵、木村成従、秋田博芳など従来あまり注目されてこなかった学者・文人に関する書状を分析し、新たな知見を得ると同時に、多方面から史料の収集と調査にも努めた。ことに荷田春満が契沖の「万葉集」を受容した経緯も明確となり、従来の国学研究の推論を訂正することができたのは大きな成果である。 研究会・調査などとともに、恒常的にデータ集約などの作業を並行させながら、享保期前後の江戸・上方における国学者のネットワークの実態を精査しており、春満および春満没後の門人などのネットワーク圏が 、従来知られることのなかった広範で横断的ものであったことを確認でき、最終年度の成果につなげることができている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究会を通して、荷田春満の弟である信名の日記を講読、および参加した各研究者の研究成果報告によって、享保期前後の江戸における国学者のネットワークの実態が、昨年度よりも一層明確になり、大名・旗本・大名家臣・神職・僧侶・御用町人などとの関係が明らかになった。 文学・国学の見地では、前年度までに春満門人である大西親盛の歌集『松葉集』の翻刻・精読を始め、300点以上の和歌短冊や、紙背文書である和歌詠草の整理と翻刻を行ったが、この成果により春満の門人と没後の門流のネットワークについて新たに知見を追加し、人的ネットワークのより高精度な分析を行うことができた。歴史学的・神道史的な見地では、前年度に懐徳堂創設に関わった中井甃庵と荷田春満との関係を明らかにしたが、この関係を通して春満が契沖の「万葉集」研究を春満の晩年に入手した史実が判明し、今後の国学成立期の研究を変える可能性も出てきた。 日本語学・語彙研究からの見地では、春満が記紀史料のみならず、近世の東 国方言などにも音韻研究を行っていたことが分かってきた。ネットワーク研究と同時に、従来の研究の幅をさらに拡充することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始以来の研究構築と史料収集成果を踏まえて、京都市伏見区の東丸神社所蔵「東羽倉家文書」、京都市伏見区伏見稲荷大社所蔵「西羽倉家文書」の補足調査を行い、写真撮影などによりデータを収集し、収集史料の分析を集大成する。「東羽倉家文書」のうち、荷田春満の実弟で有力な門人でもあった荷田信名の日記から、登場人物の名前を摘出する作業を数年にわたり続け、大名・旗本・藩士・浪人・儒者・和学者・神職・僧侶・商人・職人など多様な階層の人々を見出し、主要な人物に検討を加えてきたが、総合的に分析を重ね、前期国学の特徴やネットワークを明らかにしていく。 また「東羽倉家文書」中の荷田春満『伊勢童子問』自筆草稿の紙背にある門人の書状から、春満が享保改革の古典籍収集事業に協力していた時期が重なり、その具体的な様相とともに、同時期に各地の門人に和歌・古典を伝授していた実態を検討していたが、これらの検討を総合的に分析し、春満の学統のネットワークと学問の水準を考察する。かつ昨年まで調査を行った京都府総合資料館所蔵「大西家文書」や「西羽倉家文書」から伏見稲荷の社家に存在した春満の門人にも検討を加え、特に大西親盛など高弟に注目して、神道史的な考察を加えていく。 さらに春満とその周辺の和歌会関係資料および和歌を集大成し、近世中期の和歌の発展と春満および門葉のネットワークを分析し、その学統が上方の文人社会に与えた影響についても考えていく。これらの分析の必要上、「東羽倉家文書」「西羽倉家文書」の原史料を確認するため、京都における史料調査を2回程度実施する。 以上の研究を学際的・総合的にまとめながら、従来知られることがなかった春満の学統の人的・知的ネットワークを明らかにし、18世紀以降の近世社会・文化の展開の中に位置付け、新たな国学像を提示するため、研究集会を実施して研究成果を公開するとともに、報告書を刊行する。
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Remarks |
荷田春満の自筆史料など東土倉家文書の一部を写真公開し、翻刻した史料集及び報告書をPDFで公開している。
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Research Products
(15 results)