2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03295
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
矢野 昌浩 龍谷大学, 法学部, 教授 (50253943)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 真理 東洋大学, 法学部, 教授 (20282254)
脇田 滋 龍谷大学, 法学部, 教授 (50128691)
田中 明彦 龍谷大学, 社会学部, 教授 (60310182)
濱畑 芳和 立正大学, 社会福祉学部, 准教授 (60581642)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 半失業 / 社会権 / 雇用保障 / 生活保障 / 職業訓練 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度末に、これまでの研究成果の一部を整理して、矢野昌浩・脇田滋・木下秀雄編『雇用社会の危機と労働・社会保障の展望』(日本評論社、2017年)を公刊することができた。冒頭に位置する序章を除くと3部構成からなり、第1部では社会権論を中心とする原理論、第2部では具体的な論点、第3部では外国法研究を収めた(総頁数312頁)。フランス・ドイツ・韓国を比較対象国としてフォローしつつ、日本における雇用と社会保障のよりよい連携のために国家と企業が負うべき責任とそこでの個人の役割を社会権論の観点から考察し、不安定雇用労働者・若者・高齢者の雇用・生活保障に関する制度論を検討した。 とくに韓国については、脇田滋・龍谷大学教授(当時)が推進役となって、韓国労働社会研究所の金鍾珍研究委員を招請し、シンポジウムを同大学で開催することができた(2017年2月14日)。労働権益侵害ゼロ、労働死角地帯解消、生活賃金拡大適用、非正規職の正規職化、労働時間短縮、勤労者理事制、政策ネットワーク構築などの論点を中心に、活発な議論が長時間にわたり行われた。シンポジウム開催にあたっては、金鍾珍研究委員の著作文献の翻訳などを収めた資料集を作成し(総頁数204頁、非売品)、参加者に配布した。 また、ドイツとの比較法的検討を踏まえて、雇用・社会保障における国家・企業・個人の役割に関する理論的検討が進んだことも特筆される。フランスに関する外国法研究の成果としては、「雇用への権利」に関する憲法院判例の分析を通じて、いわばフランス流の労働権が裁判規範としていかに機能しているかが明らかにされ、日本の労働権論との比較検討が行われた点が今後の作業にとって重要であったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究会を5月・7月・9月・11月・1月・3月に計6回開催した。7月の研究会は合宿形式で行い、集中的に議論を行なった。3月の研究会は他のいくつかの研究会にも参加を呼びかけ、オープンな形で開催した。2月14日には、韓国労働社会研究所の金鍾珍研究委員を招請して、ソウル市労働政策の展開と意義をテーマにシンポジウムを龍谷大学で開催した。労働権益侵害ゼロ、労働死角地帯解消、生活賃金拡大適用、非正規職の正規職化、労働時間短縮、勤労者理事制、政策ネットワーク構築などの論点を中心に、活発な議論が行われた。韓国については、これらの点に関して現地調査も行った。ドイツについても、現地調査を行い、就労支援施策などに関する関係各所へのヒアリングを実施した。フランスについては、援助付契約の制度的枠組みや実態を文献を通じてフォローするとともに、大きな政治的・社会的争点となった労働法改革の動向を、一方では従来の改革論議と、他方では憲法院判例を中心とする憲法論と関連づけながら検討することに着手した。 この間の研究成果を、日本における社会権論の深化による雇用と社会保障のよりよい連携という観点から整理して、矢野昌浩・脇田滋・木下秀雄編『雇用社会の危機と労働・社会保障の展望』(日本評論社、2017年)として刊行した。雇用と社会保障のよりよい連携のために国家と企業が負うべき責任とそこにおける個人の役割を、比較法も踏まえながら社会権論の観点から考察し、不安定雇用労働者・若者・高齢者の雇用・生活保障に関する制度論を検討した。その一方で、保育、介護、シングルマザーという一連の問題に関する検討の進行が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの作業を通じて、日本における「雇用と失業の二分法」の再確立のための論点は、あらかた整理できたと考える。ただ、現在のアプローチの仕方では、賃金・所得保障と社会福祉サービスの充実に論点が集中する傾向にある。そこで、職業訓練の総合的な社会法的保障のあり方というアプローチをあらたに加えたい。職業訓練というフィールドを設定することで、雇用と社会保障のよりよい連携(失業と半失業に対する一対となった法的施策)のために国家と企業が負うべき責任とそこにおける個人の役割を、さらに立体的に捉えることが可能になると考える。また、シングルマザーやケアを負担する者が職業訓練を希望する(就労強制・訓練強制ではないという趣旨で)場合に、それを具体的にどのように実現することができるかというより特定された課題を想定することが、「半就労・半福祉」による生活保障モデルの検討を前進させうると予想している。 これまで通り、2か月に1回研究会を開催し、必要に応じて合宿を取り入れて集中的に議論を行う。本年度の前半には、職業訓練を中心として主に文献研究を通じて日本の問題状況の整理・分析を行うとともに、比較対象国(今年度からスウェーデンを追加した)との比較検討を進める。検討作業が遅れがちであった保育、介護、シングルマザーという一連の問題についても検討を行う。本年度の後半については、検討結果をまとめる作業に取り組む。一昨年度・昨年度の検討の一部についてはすでに書籍を公刊することができたので、職業訓練およびそれと雇用・生活保障との関係、そこにおける国家・企業の責任と個人の役割を中心的に考察することになるであろう。その際の基本的視点としては、「労働者のケイパビリティの制度的保障」を想定しているが、日本の労働市場の現状分析に関する規範論としてのみならず、具体的な制度設計のための作業仮説としても活用できるかが鍵となるであろう。
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Research Products
(18 results)