2017 Fiscal Year Annual Research Report
社会の制約と個人の制約-対人行動戦略に対する関係流動性と市場価値の交互作用効果
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15H03445
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
結城 雅樹 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50301859)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 社会生態学 / 適応 / 関係流動性 / 対人行動 / 個人差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、対人行動戦略の社会間分散と社会内分散を統一的に説明する理論仮説の検討である。注目する社会生態学的変数は関係流動性、個人差変数は配偶価値である。今年度は、計5セットの研究活動を実施した。 研究1:恋愛関係におけるパートナー保持行動(利益提供とコスト賦課)に関係流動性と配偶価値が与える効果を検討した。異性と交際中の日米の成人女性を対象としたオンライン調査の結果、関係流動性と配偶価値の主効果については、高関係流動性社会では低関係流動性社会よりも利益提供が見られやすく、また高配偶価値者は利益提供を、一方低配偶価値者はコスト賦課を、というおおむね予測通りのパターンが見られた。だが、両者の交互作用効果については一貫したパターンが見られなかった。 研究2:恋愛関係でパートナー保持に役立つ適応的感情と考えられる嫉妬を取り上げ、関係流動性と配偶価値の効果の検討を行った。異性と交際中の日米成人男女を対象としたオンライン調査の結果、嫉妬感情は、認知・情動・行動のいずれの要素においても関係流動性が低い方が強いという、予測とは逆のパターンが見られた。これは、パートナー獲得をめぐる競争性よりも代替関係の欠如が嫉妬の原因となっている可能性を示唆している。個人差・交互作用効果については一貫したパターンが見られなかった。 研究3:一昨年収集した39ヵ国の市民約1万7千人分のデータの詳細な分析を行った。その結果、関係流動性が、1)他の文化・社会生態学変数と概念的・経験的弁別性を持つこと、2)様々な対人心理・行動傾向を予測するにあたってそれらの変数と比較して強い予測力を持つことなど新たな重要な発見があった。論文は一般科学誌に投稿され、現在、審査コメントに基づく改訂作業中である。 研究4,5:大学生を対象とした多国間比較研究、文化人類学データベースHRAFを使った研究についての準備を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究1(パートナー保持行動)は、関係流動性および配偶価値の主効果が、研究代表者によるものを含む先行研究からの予測通りのパターンで見られた一方、交互作用効果については一貫したパターンが見られなかった。 研究2(嫉妬)は、適応的感情に対する社会環境と個人特性の交互作用効果を扱った初めての研究であった。しかし関係流動性の主効果は当初の予測とは逆であり、また予測した交互作用効果もパターンが一貫しなかった。 以上の2つの研究からは、1)関係流動性には、高関係流動性状況におけるパートナー獲得をめぐる競争性と、低関係流動性状況における代替関係の欠如とが、いずれも積極的なパートナー保持行動とそれを支える心理を強めるとの複雑な影響過程がある、2)交互作用のパターンにはさらに複雑な要因が関連している、ことが示唆された。残された期間で、この点を解明していかなければならない。 研究3は、共同執筆者を新たにチームに加えるなどして、非常に順調に進めることができた。 研究4,5(多国間学生調査および文化人類学データベース研究)は、準備に時間がかかり、実施が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
・来年度は、1)大学生を対象とした多国間比較調査、2)文化人類学データベースHRAFを用いた多民族間比較、3) パートナー保持行動と嫉妬に関する追試、等を行っていく。 ・3)については、今年度の研究から示唆された新たな理論的問題の解決を試みる。 ・1)と2)は進捗が遅れていたものであるため、問題を解決しつつ着実な実行を図る。 ・後半には4年間の研究成果を踏まえた学術誌論文と報告書の作成に力を割く。
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Research Products
(10 results)