2016 Fiscal Year Annual Research Report
細菌のダイナミックな細胞骨格:その動作原理を求めて
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15H03712
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
和田 浩史 立命館大学, 理工学部, 准教授 (50456753)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 良巳 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (10315830)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞の構造力学 / バクテリア細胞骨格 |
Outline of Annual Research Achievements |
らせん型の細菌スピロプラズマは、右巻きと左巻きのらせん形を動的に切り替えながら流体中を推進する。原核真核を問わず、どのような細胞運動においても、これほど劇的で大規模な内部変形は他に例がないが、にもかかわらず、スピロプラズマは鞭毛や繊毛といった標準的な運動装置を持たない。そのため、本質的に全く新しいマシナリーを備えた細菌であると考えられてきたが、その動作機構は今も謎に包まれている。本研究では、この驚異の細胞運動を引き起こす「膜--細胞骨格系」の動作原理を、物理学的アプローチを駆使して解明することを目指している。 本年度は、主に三つの方向性から研究に取り組んだ。順番に説明する。ひとつ目は、連携研究者の宮田真人教授(大阪市大)のグループにおいて、スピロプラズマの構造解析がすすみ、細胞の極を定義する内部装置と細胞骨格を定義するリボンの分子構造が明瞭になってきた。さらに、光ピンセットを用いて細胞の弾性を測定し、我々のシミュレーションおよび理論計算と比較することで細胞の基本的な弾性定数を決定した。これらをインプットとして運動を駆動する仕組みについて仮説を提案し、そのエネルギー的考察を発展させている。 二つ目は、スピロプラズマの細胞形状を実現する力学的な仕組みを、複合材料の視点から考え、理論的に考察した。硬いリボン状の細胞骨格が(相対的にそれより)柔らかい膜のチューブを裏打ちしており、リボンの伸縮が行われるとき、全体としてどのような構造が出現し、らせんのパラメータが各要素の伸縮率や弾性率からどのように決まるのか、という問題を理論的に定式化した。 最後は、弾性リボンの基本的な力学特性を、スケールアップモデルの物理実験と理論、シミュレーションを組み合わせ明らかにした。これは細菌の構造力学だけでなく、他の物理システムや工業デザインにも応用可能な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は順調に進展し、アウトプットも出ている。 連携研究者の宮田教授のグループ(大阪市大)および中根助教が所属する西坂教授グループ(学習院大)の精力的な研究のおかげで、スピロプラズマの構造とうごきにかんする新たな実験データが数多く生まれている。これらの最新の成果にアクセスできる研究体制にあることが、本計画の順調な推進を支えている。 また分担研究者の田中准教授のグループ(横浜国立大)とは弾性リボンのスケールアップモデルの実験的な研究を共同で推進しており、その基本的な力学特性について重要な研究成果をあげることが出来た。現在、類似の計測システムを立命館でも構築しており、さらにこの方向で研究を推進する準備を進めている。 以上に加えて、本研究の主なアプローチである計算的研究は順調に進んでおり、全体として期待どおりの進み具合であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
連携研究者の宮田教授のグループ(大阪市大)および中根助教(学習院)が所属する西坂教授グループの精力的な研究により、スピロプラズマの構造とうごきにかんする新たな実験データが数多く生まれている。ただし、運動する内部構造の直接観察は原理的に不可能であり、今後はこれらの有益な「状況証拠」をパズルのピースのようにつなぎあわせ、背後で作動しているメカニズムを突き止める必要がある。 なかでも、西坂グループは光と薬剤をもちいて、スピロプラズマの右らせん左らせんを外部から自在に変化させることのできる実験手法を確立した。これによって制御されたかたちでらせん反転の伝搬速度や細胞変形のようすを観測することができる。我々は内部に2状態モデルを組み入れた弾性フィラメントモデルを構築し、光照射時に観測されたらせん反転のようすを、シミュレーションによって再現することに成功している。また、伝搬速度にかんするスケーリング理論を発展させ、計算結果を説明することにも成功している。計画の最終年度である本年は、この方向の研究をひとつの大きな柱として推進したいと考えている。 さらに、構造解析や動きの計測データなどを組み合わせ、これまでの成果を統合して、スピロプラズマの動きの仕組みに迫る生物学的なモデルを提唱するところまで考察を押し進めたい。
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Research Products
(4 results)