2015 Fiscal Year Annual Research Report
「自伐型林業」方式による中山間地域の経済循環と環境保全モデルの構築
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15H04562
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
家中 茂 鳥取大学, 地域学部, 教授 (50341673)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
興梠 克久 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (00403965)
鎌田 磨人 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (40304547)
佐藤 宣子 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80253516)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 適正技術 / 森林再生 / コモンズ / 中山間地域 / 自伐型林業 / 移住定住 / 生業創出 / 社会的イノベーション |
Outline of Annual Research Achievements |
森林の多面的機能や生態系サービスを十全に引き出すような持続的林業経営のあり方について、「自伐型林業」という「適正技術」の普及と移転という視点から考察することが、本研究の目的である。そこで、本研究では、領域横断的な研究体制を組み、①自伐型林業の生物多様性及び水土保全効果の測定、②持続的林業経営の基盤形成、という二つのテーマを設定した。 ①については、鎌田磨人と田村隆雄が、徳島県那賀町における自伐林家の山林をフィールドにしてデータを収集した。初年度であることから、施業林地の保水力を評価するためのデータ収集のための雨量計と水位計を林内渓流に設置する作業を行った。②については、家中茂、佐藤宣子、興梠克久、笠松博樹、松村和則を中心に各地でフィールド調査を行った。 佐藤と家中は、自伐型林業への、とくに若い世代による新規参入の特徴について調査を実施した。興梠は、静岡県における自伐型林業について調査し、その集団化・協業化の傾向やそれを支援する行政施策について検討した。笠松は愛媛を中心に、また、松村は東北地域を中心に、自伐型林業の取組みについての地域特性について調査した。家中は、鎌田とともに、岩手県遠野市における「馬搬」をもちいた自伐型林業について調査し、それが身近な森林環境を順応的に管理しつつ地域をデザインするツールとして用いられていることについて考察した。 領域横断的研究プロジェクトであることから、笠松をコーディネーターに愛媛大学での研究会と、愛媛県西予市の農林兼業の自伐型林家における合同調査を企画し、それぞれの学問的視点についての相互理解を促すことにした。また、研究会のほかにもシンポジウムなどにおいても議論を積み重ね、自伐型林業をめぐる論点について積極的に意見交換をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)自伐型林業の森林環境保全調査/初年度である平成27年度は、水土保全効果については、徳島県那賀町の橋本林業の協力を得て、測定機器の設置をおこなった。データの分析は2年度目から実施するが、後半にはそのデータ分析及び評価について共同研究メンバー間で共有する研究会を開催することを考えている。 (2)順応的管理及び価値創造のツール/景観生態学分野については、岩手県遠野市綾織地区における「馬搬の森づくり」のフィールドワークをつうじて、身近な森林環境を順応的に管理しつつ、同時に、自らのライフスタイルを創造するツールとして、自伐型林業を捉える視点を形成することができた。今後、このような視点から、人と自然の相互作用として自伐型林業の取り組みを位置づけて考察する方向性がでてきた。 (3)自伐型林業への新規参入動向/とくに若い世代による新規参入、あるいは、これまで林業とはほとんど関係をもってこなかった層による新規参入を調査することにより、既存の林業政策を相対化する視点を形成しつつある。その傾向を「自ら考える林業」「たのしむ林業」「地域という視野に立った林業」として捉えることができそうである。また、「山林バンク」など、新規参入を促進するために中山間地域の小規模自治体がどのような支援策を考案していくかということも興味深い論点である。 (4)自伐型林業の多様な展開/静岡県、愛媛県、東北地域などで、長年にわたって調査を続けてきた共同研究メンバーが、あらためて「自伐型林業」という視点から調査を積み重ねており、それらの成果の共有化を、2年度目に研究会やシンポジウム等をつうじて進めていくことにする。なお、共同研究メンバーの3名が報告した日本村落研究学会大会テーマセッションもとに、「山村と林業」をテーマとした学術書の出版が平成28年度に予定されている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)概ね、当初計画のとおりに調査研究は進んでいる。それに加えて、「現在までの進捗状況」で言及したように、平成27年度の調査をつうじて得られた成果として、①「ツールとしての自伐型林業」、②「新規参入者による自伐型林業をつうじた価値創造」という視点の形成をあげることができる。 (2)(問題関心1)「自伐型林業という適正技術や、それをもちいた林業経営が、既存の林業方式と比較してどのような点で優れており、それはどのような理由からか」ということが、本研究の当初計画の大きなモチベーション(研究動機)として位置づけられる。それに加えて、上記①②の新たに形成された視点から、(問題関心2)「自伐型林業の施業や適用を通じて、その担い手たちや地域にどのような意識変化が生じているか」について考察することが重要である。それは、自らの所有山林をもたない、移住型の自伐型林業新規参入者を、既存の「請負林業」と比較して、同じとして捉えるのか、それとも新たな林業経営や地域再生の可能性を示唆していると捉えるのか、その差異を考察することにつながるだろう。 (3)自伐型林業運動とは別の文脈で取り組まれている、各地の自伐林業・自伐型林業の展開がある。静岡県における自伐林業はその例である。2年度目は、静岡をはじめとした、多様な自伐林業の展開についての調査を実施するとともに、経営データを活用した自伐型林業へのアプローチも試みることにする。また、今後は、集落単位や生産森林組合、財産区などでの自伐型林業の取り組みについて、どのような新たな動向がでてきているのかも把握していきたい。 (4)CSV(Creative Shared Value)の視点から、森林資源の利用における自伐型林業の位置づけを、他の資源の利用との比較で考察することも、2年度目から進めていきたいと考えている。
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Research Products
(24 results)