2015 Fiscal Year Annual Research Report
T細胞系列への特化過程を駆動する転写因子ネットワークの解明
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15H04743
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河本 宏 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (00343228)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 発生・分化 / 免疫学 |
Outline of Annual Research Achievements |
多能幹細胞からT前駆細胞になるまでの過程で、まずエリスロイド系、次にB細胞系、最後にミエロイド系への分化能が失われることが我々の研究で明らかになっている。本研究ではこの中の「B細胞系列への分化能を終息させミエロイド-T前駆細胞になる過程」すなわち「T系列への特化過程」に焦点をあてる。すでに得られているデータとして、多能前駆細胞を分化同期培養して経時的に回収したサンプルを理研のFANTOM5プロジェクトのCAGE法で解析したものがある(Science, 2015)。このデータから特化過程の転写因子ネットワークを予測することができた。本研究では転写因子の発現あるいはエピジェネティック制御機構を改変することにより、この予測されたネットワークを検証し、ネットワークの核心的な部分を描き出す作業を行う。27年度は以下を計画した。 R-Id3で誘導的に多能前駆細胞を作製する 転写因子の阻害によりB細胞分化能に影響がでるかどうかをみる snai1とsnai2の機能を調べる (1)については作製に成功し、論文としても報告した(Ikawa et al, Stem Cell Reports. 5: 716-727. 2015)。(2)については実際にデータを得るまでには至らなかった。(3)についてはマウスの掛け合わせを開始した。総じて、おおむね順調に進展している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)ER-Id3で誘導的に多能前駆細胞を作製する E2A欠損前駆細胞は多能前駆細胞として維持できることが分かっている(Ikawa et al, Immunity, 2004)。E2AはId蛋白により機能を阻害することができるので、ER-Id3を用いて誘導的に多能前駆細胞を作製することを試みた。実験系を具体的に説明する。マウスの骨髄あるいは胎仔肝臓中の未分化造血前駆細胞分画(Lineage-c-kit+Sca-1+: LKS細胞)にレトルウイルスを用いてER-Id3を導入した。タモキシフェンを添加してB細胞分化誘導条件で培養することにより、B細胞へ向う途中で分化停止して足踏みをする。すなわち、M-T-B多能前駆細胞を自己複製させて維持できる。タモキシフェン添加を中止することにより、この細胞はB細胞の分化能を取り戻すので、B細胞への分化能を検定できることになる。平成28年度には、この系を完成させ、論文として報告することができた(Ikawa et al, Stem Cell Reports. 5: 716-727. 2015)。さらにこのER-Id3で作製した多能前駆細胞がT前駆細胞に分化誘導できることも確認できた(未発表)。従って、基本的な実験系は予定通りに構築できたといえる。 一方、(2)の計画については、転写因子の阻害実験にまでいたらず、やや遅れている。 (3)のsnai1とsnai2については、それぞれのfloxマウスを京都大学でマウスを起こして掛け合わせを開始した。ほぼ予定通りに進んでいる。 以上より、全体としては、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度にはER-Id3で誘導的に多能前駆細胞を作製する実験系を樹立した。タモキシフェンの存在下では多能前駆細胞を維持できるが、タモキシフェンを除去するとB細胞への分化が始まる。28年度以降はこの細胞をノッチリガンドを発現するストローマ細胞との共培養系に移すと、T細胞系への分化が始まり、ある時点でB細胞系への分化能が失われることになる。この処置を行った後、経時的に取り出してB細胞への分化がどの時点で失われるかを特定する。経時的な細胞の遺伝子発現profileやエピジェネティックな制御状態を詳細に解析し、B細胞の分化能を消失する時点で何が起こっているかを解明する。 さらに申請者らの研究によりT前駆細胞でポリコムの機能を不活化すると、B細胞特異的転写因子群が発現し始め、さらにそのような細胞を生体の骨髄中に移植すると最終的にはB細胞になることも明らかとなった(Ikawa et al、論文投稿中)。さらにT系列のアイデンティティの維持のためにはポリコムがPAX5を抑制し続ける事が重要であることも分かっている。 このT系列からB系列への系列変換が起こるという知見は、T前駆細胞の決定状態の維持にポリコムが必須であることを示している。しかし、T細胞系列への特化過程に「ポリコムによる制御」が必須であるかどうかは、不明である。そこで、まずポリコムを欠損した多能前駆細胞を作製する。そのために、IL-7R-CreあるいはFlt3-CreマウスをRing1A-/-Ring1Bf/fマウスと交配する。このマウスの造血前駆細胞にER-Id3を導入することにより、ポリコム欠損多能前駆細胞を作製する。そのようにして作製された多能前駆細胞をT細胞分化誘導環境におくことにより、T細胞系へ向けての分化がそもそも起こるのかを調べる。 snai1とsnai2のコンディショナルノックアウトマウスの作製実験も継続する。
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Research Products
(3 results)