2016 Fiscal Year Annual Research Report
日本およびアジア地域における過去の地域気候変動のアトリビューション
Project/Area Number |
15H05464
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 友徳 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (10512270)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 気候変動 / アジア / 降水 / 熱波 / 陸面 |
Outline of Annual Research Achievements |
高緯度ユーラシア地域では、過去30年の間にモンゴル周辺で上空の高気圧偏差の強化が確認され、地表面付近では熱波の増加や土壌水分の低下、一部地域で植生活動の低下が検出された。このうち熱波の増加に関して観測データの解析結果から大陸規模の循環場偏差に加えて、局地的な土壌水分偏差の寄与が示唆された。これらの寄与を定量化するため、大気再解析データを境界条件とする領域気候モデル実験により過去気候の再現を行ったところモデル中でも乾燥化と高温化傾向が再現されることを確認した。さらに、隣接する東シベリアでは湿潤化傾向が見られることから、両地域の関係に着目して原因究明を進める。 北日本に豪雪や激しい吹雪をもたらすポーラーローと呼ばれるメソ擾乱に着目し、その空間分布や季節変化を明らかにするために、20km格子間隔の領域大気モデルを用いて30年分の冬季実験を行った。さらにモデル出力データを用いて客観的にメソ擾乱を抽出するアルゴリズムを構築し、メソ擾乱の発生位置分布が北海道西岸沖に集中していること、1-2月に発生が突出していることを明らかにした。今後、海氷等の年々変動と発生数や空間分布の関係を調べるための感度実験を実施する。 日本における近年の強雨事例の増加に関連して、GPS可降水量を用いて大気水蒸気量と地上気温との関係を統計的に調べた。極端に高いカテゴリの可降水量の絶対値と地上気温はクラウジウス・クラペイロン関係でほぼ説明できるが、気温帯によって極端降水とは異なる傾向を示すことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り、初年度に取得したデータセットを用いて、解析サーバ上で研究対象とすべき現象の抽出と検証、および過去気候の再現実験を実施した。高緯度ユーラシア地域では、過去30年の間にモンゴルを中心とする地域で上空の高気圧偏差の強化が確認されており、対応して地表面付近では熱波の増加や土壌水分の低下、一部地域で植生活動の低下が確認されている。このうち熱波の増加に関しては大気再解析データを境界条件とする領域気候モデルで概ね再現されることが確認された。北日本に豪雪や激しい吹雪をもたらすメソ低気圧擾乱に関しても、20km格子間隔の領域大気モデル実験を用いて30年分の冬季実験を完了している。さらに、本モデル出力データをもとに客観的にメソ擾乱を抽出するアルゴリズムの構築が完了し、メソ擾乱の発生位置分布や季節変化等の統計情報を作成することに成功した。南アジアの降水変動については、前年度までに得られた成果を学会等で公表し、関連する論文も投稿中である。これらの進捗を考慮すると、計画は概ね順調に進捗しており、今後上述の事象について陸面状態や海面水温等の長期変化の有無を考慮した感度実験を行うことで、地域気候変動のアトリビューション解析を進めることができると考えられる。 さらに、近年の強雨事例の増加に関連して、大気水蒸気量の観測データを用いた解析も実施しており、モデリングに依存せず、観測データからも日本周辺の地域気候のアトリビューションにつながる成果が得られつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度までに整備した各種データ(大気再解析、海面水温・海氷、植生、土壌水分など)を用いて、引き続き過去の地域気候変動の再現実験を行う。また、海面水温・海氷や土壌水分など大気モデルにおける下部境界条件を気候値などの仮想的な条件に置き換えた感度実験を開始する。感度実験の計算期間は、再現実験と同様に30年程度の期間について実施する。この感度実験と再現実験を比較することによって、気温や降水等に代表される気候変動パターンにどのような違いが見られるか調査を行い、地域気候変動に対する下部境界条件の寄与を明らかにする。 前年度に選定した研究対象として、1.高緯度ユーラシアの極端気温および降水量変動、2.南アジア地域の降水の季節内変動と年々変動、3.北日本に豪雪をもたらすメソスケール擾乱、の3つに注力し、これらの感度実験に着手する。さらに、北極海海氷の変動が高緯度ユーラシアの降水量変動に与える影響や、低~中緯度アジア地域の降水量変動に対する熱帯低気圧やメソ擾乱の寄与について、発生数や発生分布の時空間変動に的を絞って調査を開始する。 これらの過去の再現実験や感度実験の解析に加えて、本課題開始以降に公開されたデータセットも積極的に活用して上記の解析結果を補強する。さらに、近年発生した異常気象等のイベントについても研究対象とすることを検討し、近年顕在化しつつある気候変動のシグナルに対するアトリビューション解析の適用可能性を調べる。
|