2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05703
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高柳 広 東京大学, 大学院医学系研究科, 教授
|
Project Period (FY) |
2015 – 2019
|
Keywords | 骨代謝 / 免疫 / 造血 / 関節リウマチ / 自己免疫疾患 / 自己寛容 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、骨疾患・免疫疾患における骨-免疫系作用の生理的意義を包括的に解明し、疾患克服に向けた研究基盤の構築を目指す。 ①自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 : T細胞は免疫応答の中枢的な役割を担い、その分化・生存維持・活性化の制御機構を理解することは、自己免疫疾患のみならず様々な免疫疾患の病態解明と治療法開発に必要な課題である。我々はT細胞活性化に伴いタンパク質のアルギニンメチル化修飾が増強されること、並びにアルギニンメチル基転移酵素PRMT5をT細胞特異的に欠損させたマウスでは、iNKT細胞がほぼ欠失し、末梢のCD4、CD8 T細胞が減少することを見出した。PRMT5はスプライソソーム構成因子をアルギニンメチル化することにより、共通サイトカイン受容体γ鎖(γc)とJAK3のpre-mRNAスプライシングを増強させ、IL-2やIL-7といったT細胞、iNKT細胞に重要なサイトカインシグナルに必須であるを明らかにした。本研究によりγc/JAK3経路依存性サイトカインのシグナル強度がRNAスプライシングにより調節されるという全く新しい制御機構を発見した。 ②新たな骨-免疫系インタラクションの解明 : γδT細胞は、骨折の治癒、炎症性疾患や腫瘍の制御に重要な役割を果たしており、その分化制御機構の解明は重要課題である。γδT細胞は胸腺にて分化・成熟するが、それを制御する胸腺環境因子やTCRリガンドについては不明な点が多い。我々はγδT細胞制御因子の候補であるSkintファミリー遺伝子に着目し、ゲノム編集法によって11のSkintファミリー遺伝子を全て欠損するマウス(SKLD)を作製した。SKLDマウスでは皮膚の恒常性維持を担うVγ5Vδ1γδT細胞の分化が著しく障害されたが、他の免疫細胞の分化に影響はみられなかった。従って、Skintファミリー遺伝子はVγ5Vδ1γδT細胞の分化に必須であることがわかった。γδT細胞サブセットを制御する胸腺環境因子の同定、およびγδT研究に有用なマウスモデル作製の観点で重要な成果となった。またサイトカインRANKLは破骨細胞分化のみならず免疫組織形成や様々な免疫制御能を有し、骨と免疫系の共有因子の代表格として知られている。RANKLは骨量減少性疾患のみならず、がんの骨転移にも深く関与し、腫瘍細胞による破骨細胞活性化の他、RANK陽性腫瘍細胞に直接作用して骨への遊送を促す働きも有する。RANKL中和抗体デノスマブは骨粗鬆症、がんによる骨病変、関節リウマチの骨びらん抑制に承認され、骨吸収阻害薬として大きな期待が寄せられている。しかし抗体製剤処方に伴う高額の医療費は大きな問題であり、安価な低分子医薬品の開発も必要とされている。我々はマウスのがん骨転移モデルを用いて、新規RANKLシグナル低分子阻害剤が、破骨細胞分化抑制および腫瘍の骨組織への走化性の阻害という2つの作用機序により、骨転移を抑制することを明らかにした。低分子阻害剤によるRANKL阻害療法は、デノスマブの代替アプローチとしてだけでなく、がん骨転移に対する新たな治療戦略として大いに期待できる。 ③骨髄微小環境における骨免疫制御 : 我々は以前、神経・免疫制御因子であるSema 3Aが骨芽細胞系細胞から産生され、骨芽細胞自身と破骨細胞の両者に働きかけることで、骨吸収抑制と骨形成促進という二つの側面から骨の恒常性を制御する骨髄細胞間コミュニケーション分子であることを報告した(Hayashi, Nature, 2012)。この度我々は、閉経後女性では閉経前より血中Sema3A量が低下すること、骨芽細胞系細胞のSema3A発現がエストロゲンにより制御されることを見出し、エストロゲン欠乏によりSema3Aの骨量維持作用が低下することが閉経後骨粗鬆症の要因であることを突き止めた。さらにヒトでもマウスでも加齢に伴いSema3A発現量は減少しており、加齢性骨粗鬆症にもSema3A作用の低下が寄与していることが判明した。Sema3Aを基軸とした骨髄環境制御の破綻が、閉経後骨粗鬆ならびに加齢性骨粗鬆症の要因であることが判明し、骨髄細胞間コミュニケーション分子の新たな病理学的意義を明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①RA等の自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 : PRMT5によるタンパク質アルギニンメチル化修飾が、γc/JAK3経路依存性サイトカインシグナルに必須な新規の制御機構であることを明らかにした。近年、経口Jak阻害剤がRAに対して高い臨床効果をもたらし、リウマチ性疾患領域で注目を集めている。一方で感染症リスクの副作用も注視されており、その要因として、特にIL-7などのγc/JAK3依存性サイトカイン経路の阻害によるT細胞の生存増殖抑制が指摘されている。PRMT5によるγc/Jak3経路特異的な制御機構の理解は、新たなJak標的薬の開発にも繋がり、RAをはじめとした自己免疫疾患治療に有益な知見を提供できると考えられる。 ②新たな骨-免疫インタラクションの解明 : Vγ5Vδ1γδT細胞の胸腺内分化を制御するSkintファミリー遺伝子を全て欠損するSKLDマウスを作製した。現在、Adrian Hayday博士(King's College London, UK)と共同で、SKLDマウスに特定のSkint遺伝子を発現させることで、γδT細胞分化に必要なSkint分子を同定し、γδT細胞の分化制御の原理を解明する研究を進めている。またRANKLシグナル低分子阻害剤がマウスのがん骨転移に対して高い有効性を示すことを明らかにした。近年免疫チェックポイント阻害剤の登場によりがん免疫療法が脚光を浴びているが、転移性骨腫瘍に対する効果が低いことが指摘されつつある。一方、免疫チェックポイント阻害剤とデノスマブの併用療法ががん骨転移に効果的であることが最近の研究で明らかにされており、RANKL低分子阻害剤の開発研究は、複合がん免疫療法などの新たな医療技術を創出する革新的な研究シーズとなると予想される。さらに骨と免疫の双方が絡む疾患として進行性骨化性線維異形成症(FOP)の解析を進めており、FOPモデルマウスの解析から、外傷性炎症によって出現し、骨化誘導を促す特定の免疫細胞サブセット候補を見出しいる。異所性骨化に関わる骨-免疫インタラクションを明らかにすることで、FOPの病態誘導機構の解明を目指している。 ③骨髄微小環境における骨による免疫制御 : 神経・免疫制御因子Sema3Aの低下が閉経後骨粗鬆と加齢性骨粗鬆症の要因であることを明らかにした。現在、骨粗鬆症治療では骨吸収阻害と骨形成促進という両側面で作用する医薬品の開発が求められている。Sema3Aは骨芽細胞と破骨細胞の双方に作用する特異な骨保護因子であり、こうした特徴を持つ因子を標的にした医薬品はこれまで例がない。本成果はSema3A標的薬創製の重要性を示すものであり、骨粗鬆症に対する画期的な治療法開発に繋がると期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
①RA等の自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 前年度に引き続き、関節炎と骨破壊を増悪化する新規T細胞サブセット・exFoxp3Th17細胞特異的因子の遺伝子改変マウスの作製を行い、表現型の解析を通してexFopx3Th17細胞の分化・機能制御機構の解明を目指す。様々な自己免疫疾患モデルをはじめとする病態の誘導を行い、病的環境におけるTreg細胞の分化可塑性の意義の解明に繋げる。また、胸腺髄質上皮細胞における転写因子Fezf2を中心とした自己寛容成立機構の解明に取り組む。転写制御因子Aireによるスーパーエンハンサーを介した末梢抗原遺伝子の発現制御機構をATAC-seq解析等の次世代シーケンスを活用することで明らかにする。Fezf2と相互作用するクロマチン制御因子(FIP)の機能を解析するために、FIPのコンディショナルノックアウトマウスを作製し、FIPによるFezf2依存的な末梢抗原遺伝子発現制御を明らかにする。さらに、Fezf2によって制御される自己抗原とそれらを認識する自己応答性T細胞の選別機構(負の選択機構と制御性T細胞の分化機構)を明らかにする。これまで胸腺微小環境の研究は、主要な構成細胞である胸腺上皮細胞を中心に進められてきたが、それ以外の間葉系細胞(線維芽細胞など)については充分に理解が進んでいない。我々は、胸腺の髄質に存在する線維芽細胞に着目し、髄質線維芽細胞サブセットの同定・単離法を確立し、トランスクリプトーム解析および機能遺伝子KOマウスの表現型解析を進めている。予備実験の結果、髄質線維芽細胞が自己反応性T細胞の除去に重要な役割を担うことを見出しつつある。上皮細胞および線維芽細胞を含めた胸腺微小環境の全容を理解することで、中枢性免疫寛容の機構解明と制御による自己免疫疾患治療法の開発に資することをめざす。 ②新たな骨-免疫インタラクションの解明 外傷により軟組織に異所性骨化が生ずるFOPモデルマウスにおいて、ある特徴的な免疫細胞が損傷部位ならびに骨化部位に集積していることを見出している。この骨化に先行して集積する特異的な免疫細胞が、FOP疾患で見られる変異型BMP受容体のシグナルを伝達できる特定のサイトカインを産生していることが明らかとなった。この結果を元に、外傷によって誘導される特異的なサブセットのシングルセルRNAシークエンスの実施・解析を進める。現在、外傷時にどのような経路が活性化し、特異的なサイトカイン産生をもたらしているのかを分子レベルで明らかにすることを計画している。外傷誘導性免疫細胞の活性化機構、ならびに異所生骨化誘導機構を分子レベルで明らかにし、骨化誘導性免疫細胞の同定を行うことを目指す。新たな疾患誘導免疫細胞のサブセットを特定できる可能性も有するので、これまでに報告のなかった骨-免疫インタラクションの提案にも繋がることが期待される。FOP以外にも、骨と免疫系の相互作用が関わる炎症性疾患、希少性骨疾患に着目し、それらの病態モデルマウスの解析から、病態形成に関与する骨代謝細胞および免疫細胞の同定、さらには両者間の相互作用を分子レベルで明らかにし、骨-免疫インタラクションを標的とした新規治療法の創出に繋げる。 ③骨髄微小環境における骨による免疫制御 腫瘍に応じて変容する骨髄微小環境と免疫システム障害のメカニズムを、マウスの病態モデルを用いて解析を進める。すでに、腫瘍誘導性の骨障害に関与する骨髄細胞間コミュニケーション因子を見出している。これらの遺伝子欠損マウスの表現型解析を引き続き進め、さらには同定した骨髄細胞間コミュニケーション因子の産生細胞を特定し、産生細胞特異的に欠損させたコンディショナルノックアウトマウスの作製に繋げる。同定した骨髄細胞間コミュニケーション因子の標的細胞に関しては、その受容体発現を指標にして、骨構成細胞を用いたシングルセル解析を通して探索・同定する。産生細胞および標的となる骨髄構成細胞を用いたin vitro培養実験から、骨髄細胞間コミュニケーション因子による骨髄障害の誘導機構を分子レベルで解析する。さらに骨髄細胞間コミュニケーション因子を介した骨髄環境の破綻によって生じる免疫システム障害を検討する。とくに、腫瘍微小環境における様々な免疫制御細胞(腫瘍随伴マクロファージやTreg細胞など)に対する骨髄細胞間コミュニケーション因子の効果を精査し、抗腫瘍免疫応答における骨髄細胞間コミュニケーション因子の病理学的意義の解明に結びつける。最終的にこれらの成果を統合し、骨による免疫制御の破綻が疾患に繋がるという新たな概念を打ち出すことを目指す。
|
Research Products
(91 results)