2018 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of the host's homeostatic responses by the regulation of immune system and its application to the prevention and treatment of immunological disorders
Project/Area Number |
15H05787
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷口 維紹 東京大学, 先端科学技術研究センター, 客員研究員 (50133616)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩倉 洋一郎 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 教授 (10089120)
藤尾 圭志 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (70401114)
柳井 秀元 東京大学, 生産技術研究所, 特任准教授 (70431765)
根岸 英雄 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (60514297)
西尾 純子 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (40598679)
|
Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
|
Keywords | 免疫シグナル伝達 / 恒常性維持 / 自然免疫受容体 / HMGB1 / がん / 炎症 / 自己免疫疾患 / 免疫原性核酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、自然免疫系を基軸とし、生体の恒常性維持のメカニズムを解明し、その変容や破綻がもたらす各種疾患の予防・治療法に向けた分子基盤を確立することを目的としている。 これまでの解析において、HMGB1遺伝子欠損がん細胞を作成し皮下移植した際の好中球の遊走について検討したところ、好中球の浸潤が顕著に低下することが判明し、また、腫瘍の大きさも減弱することを明らかにした。HMGB1による好中球の遊走が、炎症を促進し、がんの増大につながっていると考えられた。また、HMGB1の機能を阻害するオリゴ核酸の投与によって腫瘍の大きさが減弱すること、さらに、抗PD-1抗体の投与との併用によって相乗的に腫瘍の増殖が抑制されることが判明した。現在、マウスで得られた結果をもとに、ヒトがん患者でのHMGB1の動態等を解析中である。 炎症を促進する新規DAMPs候補分子について、質量解析によって分子を同定し、機能解析を進めている。本分子を欠損させたがん細胞株を作成し、マウスの皮下に移植した際、腫瘍の増殖が親株の細胞と比較して顕著に減弱することを見出した。本分子が炎症を促進し、腫瘍の増大をもたらしているものと考えられた。本分子がどのように炎症を誘導し、腫瘍を増大させているのか、さらに詳細なメカニズムの解析を進めている。また、本分子以外にも免疫応答の制御に関与する複数のDAMP候補分子が得られており、解析を進めている。 一方で、高い免疫原性を有するsmall nuclear RNA (snRNA)について、それが抗菌ペプチドと結合することによってTLR7 (toll-like receptor 7)の強力なリガンドとして機能することを明らかにした。現在、SLEなど自己免疫疾患との関わりについて、マウス個体レベルの解析を進めている。また、ヒト自己免疫疾患におけるsnRNAの動態解析を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はこれまでのところ計画に沿って順調に進んでいる。HMGB1による腫瘍増大のメカニズムについては、好中球の遊走に関与し、がんの進展、炎症病態の増悪に寄与している知見が得られている。また、HMGB1を恒常的に細胞外へ放出させる系の構築に成功した。本システムを用いることで、細胞外に放出されたHMGB1がどのように腫瘍の増大に関与するのか、その詳細を明らかにできるものと期待され、研究の取りまとめに向けた土台が整ったと考えられる。また、新規DAMPsの探索において、候補分子のタンパクを同定し、この分子の遺伝子欠損がん細胞株を作成し、マウス皮下に移植したところ、腫瘍の成長が著しく阻害され、腫瘍中の免疫微小環境が大きく変化する現象が見られた。今後、その詳細についての更なる解明が期待される。また、snRNAについてもノックアウトマウス、トランスジェニックマウスの作成を完了しており、解析を進めているところである。さらに、HMGB1やsnRNAを抑制する薬剤の機能解析も進んでいる。またさらに、上記以外の新規のDAMPs候補分子について、知見が得られている状況であり、DAMPsの生理的役割、重要性について、包括的な理解に繋がっていく可能性がある。 このように、本年度も含めこれまでの研究によって、新知見が多数得られている状況であり、また遺伝子改変マウスの作成など今後研究を推進していく上での準備も着々と整いつつある。従って、研究の進捗状況は概ね順調に進展していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について、基本的には申請時の研究計画に沿って取りまとめに向けた研究を推進する。新展開が見られた際、または技術的困難が生じた場合には、代替法の検討などにより、適宜解決し、研究を推進していく予定である。これまでのところでは検討を進める上で大きな支障は生じていない。また、これまで得られている知見を取りまとめつつ、論文として公表を進めていく予定である。 HMGB1については、がん、炎症性病態における好中球遊走のメカニズムについて詳細をさらに追究していく。恒常的に細胞外へHMGB1を放出する系なども有効に活用し、細胞外HMGB1の生理的機能、病態における役割についての解明を進める。炎症促進性の新規DAMPsについて、HMGB1とは異なった分子が複数得られている。それらの中には自然免疫応答の活性化や炎症に関与し、がんの免疫微小環境を調節する分子が含まれていることも明らかとなったことから、今後、その詳細についてさらに解明を進める。また、残りのDMAPs候補分子についても検討を進めていく予定である。snRNAについてはノックアウトマウス、トランスジェニックマウスの作成が完了したことから、マウス個体を用いて、病態モデルにおけるncRNAの役割についての検討を行なっている。引き続きこれらの解析を進める。またHMGB1、snRNAの阻害剤を作成しており、それらの効果について、マウス病態モデルを用いて検討を行う予定である。また、必要に応じ、それら阻害剤の改変体の作成なども検討する。 一連の検討を通して、免疫系による恒常性維持システムの解明とその制御法の開発により、疾患の治療基盤の確立を目指していく。
|