2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H06707
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Research Institution | Teikyo University of Science & Technology |
Principal Investigator |
福井 郁子 帝京科学大学, 医療科学部, 助教 (50759842)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 小児がん経験者 / 就労支援 / 晩期合併症 / 体力支援 / 体調管理 / 自律性の育成 / 家族教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、小児がん経験者の就労を促進するために、晩期合併症の程度により層分けを行い、より効果的な就労支援プログラムを構築することを目的とする。H27年度は、就労支援プログラムの5つの柱(①自立性を育てる、②体力維持、③晩期合併症と体調管理、④就労面接と交渉術、⑤親の養育支援)に関して、小児がん経験者、親、各種専門家の計29名にインタビューを行い、プログラム作成に必要な情報を収集した。 1)小児がん経験者(13名)への調査:①晩期合併症がない場合と、外見上の障害、聴力・視力障害、肺疾患や消化器疾患・内分泌疾患等の内部障害など様々、②転職を何度も経験、③要領が悪い、集中力が持続しないため業務遂行に時間が掛かる、③仕事が忙しく体調管理できない、④疲れやすく体力がない、⑤幼少期の治療経験、親との関係から自律性が育ちにくいことが挙げられた。 2)運動トレーナーと体育教員への体力維持に関する調査:①運動前後に体力測定を実施し、運動前に晩期合併症と体力を考慮した運動強度を決定する。②呼吸法とバレトン(バレエ・ヨガ・フィットネスの要素を持つ)を中心とした運動プログラムを行う。 3)小児科医、院内学級教員、臨床心理士、塾経営者、親への自律性と親子関係に関する調査:本人の要因として①治療優先で教育が後回し、②長期入院でわがままになりやすく、健全なコミュニケーションが困難、③治療が受け身であるためやる気の低下、諦め、PTSDなど精神的問題が生じやすい、④約束事が守れない、提出物が遅れるなど期限遵守が困難である。親の要因では、①治療中は体力的・時間的に疲弊、②学校との調整困難、③不安から過保護になり、親子関係に溝が生じやすい、④晩期合併症の知識不足の問題が挙げられた。 4)就労支援:就労支援施設では、小児がん経験者には社会性を身に付ける、資格取得、信頼関係を築く、職場の理解を得る等の支援がなされていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小児がん経験者の就労支援に関するインタビューは既に29名行われており、当初予定していた30名程度に達している。現在、順次逐語録の作成と質的データ分析を進め、プログラムの構成要素を抽出している。 小児がん経験者へのインタビューでは、一般就労6名、障害者雇用1名、就労支援施設3名、就労前3名の合計13名に行い、採用面接での病気の伝え方や働き方の具体例が明らかとなった。晩期合併症については、現在疾病が顕在化していなくても治療による潜在的なリスクも考慮して、プログラムを実施する。特に体力維持プログラムでは、運動前に体力測定を実施し、運動習慣・晩期合併症・体力(心拍数・自覚的運動強度RPE)を考慮し、運動強度を決定する。運動プログラムは呼吸法とバレトンを中心とし、持久力・柔軟性・バランス・姿勢保持を目的としている。運動前後の体力測定は心理尺度、持久力、心拍数、肺活量、重心動揺計等を予定しており、測定項目とプログラム構成は絞りつつある。 栄養プログラムでは、晩期合併症のリスクが高い骨粗鬆症、糖尿病、高脂血症、肥満、腸閉塞、易疲労などに対する食事メニューの考案を行っていく。栄養士へのインタビューはH28年度に予定。 自律性の育成に関しては、治療経験が発達課題に与える影響を考慮し、自己肯定感とレジリエンスの影響、適切な親子関係の構築、健全なコミュニケーションを養う必要がある。また、医師からの本人と家族への適切な病気説明、親の不安を軽減し適切な親子関係を保つことが、家族の養育支援に必要なことが明らかとなり、プログラムの格子ができている。 就労支援については、就労支援施設の活動見学・インタビューを通して、小児がん経験者独自の成人がんとは異なる就労支援の必要性が明らかとなった。アサーティブコミュニケーションスキルを獲得し、病気の説明を周囲(医療者・職場)に伝える訓練が効果的だと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はインタビュー内容から、5つの柱に沿って実際の就労支援プログラムの内容を作成する。体力維持プログラムでは、運動を習慣化させるには、やる気を持続させることが大切であり、男女差を考える(女性はコミュニケーションツールを用いる、男性は競争やゲーム性を取り入れる)、晩期合併症の程度で運動強度を変えること、体力維持に効果的な下半身のトレーニングを組みこむことを検討している。アプリ開発・ホームページ開設も視野に入れ、IT関連の情報も収集している。 栄養プログラムでは栄養士や食育関係者のインタビューを今後予定しており、晩期合併症(骨粗鬆症、糖尿病、高脂血症、肥満、腸閉塞、易疲労など)に対応した短時間で調理できる食事メニューの考案を行う。 小児がん経験者と親への教育としては、全国に小児がん経験者がいるため、ピアサポート的な集まり、情報提供、心理的フォローアップを出張の形で提供することも検討している。 就労支援については、1施設のみの見学と従業員へのインタビューのため、来年度調査対象を増やしていく。採用面接時の病気説明とアサーティブ・トレーニングの内容を検討する。 5つの就労支援プログラムの実施計画は、H28年8月に帝京科学大学にて第1回目のプログラムを実施予定であり、第1部が体力維持プログラム、第2部が晩期合併症と体調管理プログラム(栄養を中心に)を実施する。同内容を山梨でも実施する。H29年2~3月に帝京科学大学にて第2回目のプログラムを実施する。第1部が自律性とレジリエンスを高めるプログラム、第2部が親への教育プログラム、第3部が就労時に留意すること・アサーティブ・コミュニケーションについてのプログラムを実施する。同内容を山梨でも実施する。研究結果については学会にて発表し、論文化はインタビュー内容における分析と、各プログラム作成に関する論文を作成する予定である。
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