2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J08092
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
笠原 健人 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 拡散律速反応 / 蛍光消光反応 / Smoluchowski方程式 / RISM理論 / 溶液ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
蛍光消光反応の多くは拡散律速であり,蛍光消光反応を微視的な観点から理解するためには拡散律速反応ダイナミクスの分子理論の構築が不可欠である.分子理論へ展開することにより,分子形状,ポテンシャルが反応ダイナミクスに及ぼす効果についての理解を深めることが出来ると考えられる. 本年度は,拡散律速反応の分子理論を構築するために,以下の二つの課題に取り組んだ. (1)外場下での一分子のダイナミクスのを記述する方程式の導出を行った.蛍光消光反応の場合,励起分子周囲の消光分子の運動が重要となる.そこで,励起分子を外場と考え,その外場下での消光分子の密度場とcurrent場を射影演算子法の運動変数として採用し,一般化Langevin方程式を出発点としてダイナミクス方程式の導出を行った.導出の際に取り扱いが困難となる消光分子を構成する原子間の密度ー密度相関(三体相関)について,液体の積分方程式理論である3DーRISMーUU方程式を汎関数微分することにより近似的な表式を求めた.また慣性項の無視やMarkov近似などのダイナミクスに対する系統的な近似を課すことにより,最終的に分子性液体におけるSmoluchowski方程式を得た.これらの近似のため,導出した方程式は短時間領域の記述には適さないが,分子動力学(MD)シミュレーション法が苦手とする長時間領域の記述が可能である. (2)(1)で導出した方程式を拡散律速反応ダイナミクスに適用するための境界条件を考案し,Smoluchowski方程式を解く数値計算プログラムを開発した.具体的には,完全吸収型境界条件を消光分子を構成する各原子に課す,つまり各原子の存在確率を励起分子と接触している位置で0とする.この境界条件の下,励起分子,消光分子を同一の二原子分子とした仮想的な分子液体系に適用した結果,消光分子の分布の時間変化を数値的に安定に計算することが出来た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子性液体における反応物分子の運動を記述するダイナミクス方程式を導出することで,拡散律速反応ダイナミクスの分子理論への展開の道筋を立てることができた.また,反応過程を記述する境界条件を課した方程式を,数値的な安定性を確保しつつ,現実的な計算負荷で解くことが出来たことからも,現実系へ適用できる段階まで進展していると言える.以上のことから、研究の目的であった溶液内における蛍光消光反応ダイナミクス理論の構築は,おおむね順調に進展しているものと評価出来る.
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Strategy for Future Research Activity |
現在用いている境界条件(完全吸収型)は,反応初期過程において誤ったダイナミクスを記述することが単純液体において知られている.よって,定常状態を含む長時間領域だけでなく過渡的な時間領域のダイナミクスを視野に入れるためには境界条件の改良を行う必要がある.そこで,単純液体において完全吸収型境界条件を改善したSmoluchowski-Collins-Kimball条件を分子性液体の場合に拡張する予定である.また,現在の枠組みは,基底状態と励起状態で励起分子のポテンシャルは変化しないと仮定している.ポテンシャルの変化が拡散律速反応ダイナミクスに及ぼす効果について明らかにするために,理論開発と同時に量子化学とシミュレーションを援用して,消光分子の分布の時間変化と速度定数について計算する予定である.
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Research Products
(3 results)