2016 Fiscal Year Research-status Report
寒冷地固有の物質情報を利用した流域の環境動態解析の高度化
Project/Area Number |
15K00514
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
駒井 克昭 北見工業大学, 工学部, 准教授 (90314731)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 恵介 神戸大学, 工学研究科, 教授 (60271649)
布川 雅典 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(寒地土木研究所), 研究員(移行) (90389651)
中下 慎也 広島大学, 工学研究院, 助教 (90613034)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 流域 / 物質情報 / 希土類元素 / 溶存有機物 / 栄養塩 / 底生藻類 / 積雪 / 融雪 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道地方の水環境問題の背景には,寒冷地固有の積雪・融雪,河川や湖沼の結氷・解氷などが物質動態を複雑にしていることに加え,流域が有する寒冷地固有の風土と産業活動の様々な汚染起源となる後背地を有することが深く関わっており,これらが物質動態の科学的解明と技術的な問題解決の障壁となっている.特に,様々な源泉や人為的あるいは自然的な土地利用がモザイク的に分布した流域においては地質由来の元素である希土類元素の環境水中の含有成分や感度や選択性の点で優位性が高い溶存有機物の蛍光特性を用いた物質循環解析が有望と考えられる.しかしながら,きわめて自然豊かな道東地方における希土類元素パターンに関する研究はなく,さらに自然由来の希土類元素の検出可能性,ひいては人為的な影響が環境水中の希土類元素パターンに及ぼす影響は明らかでない.また,溶存有機物や栄養塩などの他の物質情報を有効に利用した物質循環解析に関する知見が少ないのが現状である. 今年度は昨年度に引き続き,積雪寒冷地・道東地方の代表的な自然環境下であり,自然起源の物質と人為起源の汚染があると考えられる釧路川の上流から下流における希土類元素パターンの把握を行った.また,溶存イオンの分析等にも取り組み,人為起源と自然起源の物質の元素パターンの分布特性について明らかにした.一方,積雪寒冷地を代表する小流域として十勝地方の森林流域,陸域と海域の境界域を代表してオホーツク沿岸のコムケ湖についての研究も行った.十勝地方の森林流域とコムケ湖においては,溶存イオンや栄養塩,蛍光性溶存有機物(CDOM)を利用し,融雪時期や積雪時期における生物活動との関連について検討を行った.その他,道東地方を代表する知床や同様の問題に対する応用として海外のフィールドでの物質循環解析,物質循環モデルの適用に関する研究を実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
釧路川の上流から下流にわたって採取した水サンプルを分離・濃縮することによって環境水中の希土類元素の定量を行い,河川水に含まれる溶存希土類元素の濃度パターンを定量することに成功した,希土類元素の濃度は非常に希薄であったが,濃度パターンにはある程度の特徴が見られ,積雪寒冷地における流域の物質輸送の起源解析に利用できる可能性を示すことに成功した. 積雪寒冷地での水文現象をより詳細にとらえるため,より小さな流域を代表して十勝地方の森林流域を対象とした調査では,厳冬期の基底流出において,小河川と貯水池における溶存イオンとCDOMを用いた物質起源解析を実施した.小流域においても河川の上流と下流における水質に相違があることをクラスター分析より明らかにし,貯水池周辺の基底流出水は森林土壌を経由した表層の地下水由来成分が多く,溶存有機物が多く含まれている可能性があり,貯水池に接続する集水域が溶存有機物の発生源になることが示唆された.上流部からNO3-Nが比較的に発生していることが推定され,冬期にNO3-Nが増加することは自生性栄養構造の基礎生産を支えている可能性がある.このように,CDOMと溶存イオンに関しても積雪寒冷地における流域の物質輸送の起源追跡のための物質情報として利用可能であることが確認された. オホーツク沿岸の重要な渡り鳥の飛来地となっているコムケ湖においては,融雪が寒冷地汽水湖における干潟のCDOMと栄養塩の挙動に及ぼす影響を明らかにし,前年度までに把握された融雪に伴う浸透流との関連が示された.このことから,陸域と海域の境界である沿岸域においてもCDOMを物質輸送の起源追跡のための物質情報として有用であることを示された. その他,道東地方を代表する知床での海と陸との物質循環解析,海外のフィールドでの汚染物質の輸送に関する分布型流出モデルの適用に関する研究を実施した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,釧路川における希土類元素パターンの定量に成功し,積雪寒冷地の流域における物質輸送の起源追跡のための物質情報としての利用可能性が確認された.また,十勝地方の森林小流域においては,溶存イオンに関しても起源追跡のための物質情報として利用可能であることが確認された.今後は,希土類元素に関しては濃度パターンの測定精度や再現性を確認し,広範囲の流域を対象としてカギとなる集水域を代表する地点でのデータを蓄積することで,物質循環の実態を解明する予定である.また,溶存イオンの定量値を用いて起源解析のクロスチェックを行う. また,これまで十勝地方の小流域と沿岸域であるコムケ湖においては溶存イオンに加えて,CDOMの物質情報としての有用性が確認された.生物活動と物質情報については未解明な点もあることから,データの追加収集と再解析を試みるとともに,道東地方の別の流域を対象とした検討も実施し,最終年度のとりまとめを推進する.
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Causes of Carryover |
微量元素分析に関わる分析をより効率よく行うため,初年度に分析条件を重点的に検討した.さらに,今年度は分析の効率化によって分析にかかる費用を節約することができた.このため,微量元素分析や現地調査に関わる消耗品費や実験補助謝金を次年度に持ち越した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に持ち越した研究費は,次年度に道東地域での追加データを収集するための現地調査や微量元素分析に関わる消耗品費,および実験補助の謝金として使用する予定.
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Research Products
(10 results)