2015 Fiscal Year Research-status Report
身体動作の同調指標に基づくコンテクストの定量的評価と対面ネットワークの構造分析
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15K01183
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小川 健一朗 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (90612656)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三宅 美博 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (20219752)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 対面コミュニケーション / 身体動作 / 同調現象 / コンテクスト / ネットワーク分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、職場や学校など様々な社会システムにおいてコミュニケーションの円滑性が失われつつある。その原因として、個人の多様化が進みコンテクストの共有が困難になっていることが指摘されている。そこで、本研究では、コンテクストの共有度を定量的に評価するとともに、コンテクストが対面コミュニケーションネットワークの構造に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 これに関し、本年度は、本研究の基盤をなす「コンテクストの共有度を反映する対面コミュニケーションネットワークの特徴量」の特定を行った。そのため、我々の研究グループの先行研究に基づき、「対面コミュニケーション時における二者の身体動作の類似度がコンテクストの共有度を反映している」との仮説を立てた。当該類似度は、具体的には、二者における頷きなど身体動作の振動数差として定義した。 そして、この仮説を検証するために、実社会の企業組織内の社会的なコンテクスト(部署情報)に基づき、実際に7つの組織のそれぞれの対面コミュニケーションネットワークからコミュニティを抽出した。次いで、同じコミュニティに属する二者と異なるコミュニティに属する二者の間で身体動作の類似度の比較を統計的に行った。その結果、7組織中6組織において、部署情報でコミュニティを抽出した場合、同じコミュニティに属する二者は、異なるコミュニティに属する二者と比較して、身体動作の類似度が高くなる傾向が見られた。 この結果から、上記の仮説はおよそ妥当なものであることが示されたと言える。このことは、身体動作の類似度を用いることで、従来定量化が困難であったコミュニケーションのコンテクストを共有度という形で定量化できる可能性を示唆するものである。この成果により、身体動作の類似度をコントロールパラメータとしてコミュニケーションに介入することでコミュニティの円滑な形成をサポートできることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定よりも早い時期に本年度の分析を終了させることができた。それゆえ、次年度に行う予定の研究に対する事前準備を行った。さらに、本年度の研究結果を今後水平展開させる上での方針も定まり、そのために必要となる予備実験も行うことができた。本年度の研究結果を受けて、今後の新たな研究の方向性についても方針も定まり、そのために必要となる分析手法についても検討することができた。従って、当初の計画以上に本研究は進展していると言える。 その理由としては、1.本研究の事前準備の段階で、本研究の要諦である基本仮説の妥当性について十分に検討がなされていたこと、2.本研究の分析に必要となる実社会の企業組織における社員のライフログデータを事前に取得し、予め分析可能なデータへと加工していたこと、3.研究分担者および研究協力者との連携がうまく取れ、比較的短い周期でミーティングを行い、研究の進展具合を細かく把握できたこと、4.研究協力者として想定していた大学院生(1名)以外の学生からの協力が得られたことで、分析結果のチェックをダブルチェック体制でパラレルにできたこと、の4つが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究結果を受けて、次年度は計画通り、「コンテクストの共有度(二者の身体動作の類似度)に影響を及ぼす対面コミュニケーションネットワークの特徴量」を求めることを予定している。そのために、「対面時間が長い二者はコンテクストの共有度が高くなる」という社会科学的な知見に注目する。そして、各企業組織の対面ネットワークにおいて、対面時間の長い二者と短い二者のそれぞれが属するコミュニティでの身体運動の類似度の違いを調べる。 具体的には、対面時間(エッジの重み)を用いて、各企業組織の対面ネットワークを複数のコミュニティに分割し、同じコミュニティに属する二者と異なるコミュニティに属する二者の身体動作の類似度を統計的に比較する。なお、本年度行った事前準備の段階で、幾つかの企業組織を分析した結果、全ての組織において、同じコミュニティに属する二者の身体動作の類似度の方に高い傾向が見られている。 また、本年度に得られた分析結果に基づき、社会的なコンテクストに基づき抽出したコミュニティと対面時間に基づき抽出したコミュニティとで身体動作の類似度を比較し、社会的なコンテクスト自体とコンテクストの共有度との関係を分析する。 さらに、最終年度の研究の事前準備として、幾つかの企業組織について「コンテクストの共有度が影響を及ぼす対面コミュニケーションネットワークの特徴量」を調べることを計画している。具体的には、身体運動の類似度に基づき、各企業組織の対面ネットワークからコミュニティを抽出して、各コミュニティの構造指標(密度、クラスター係数など)を統計的に比較する。
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Causes of Carryover |
本年度の予算に繰越金が生じた主たる理由として、1.当初予定していたMIT Media Lab.(Pentlandらの研究グループ)への訪問を先方の都合により取りやめたことと、2.ビッグデータ分析用のシステムが当初の予定より安く購入できたことが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については当初の計画通りに使用する予定である。加えて、本年度の繰越金については、新たにスペックをあげたビッグデータ分析用のシステムを購入するとともに、より多角的な分析を行うために新たに数値計算用のソフトの購入に充てる予定である。
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Research Products
(10 results)