2015 Fiscal Year Research-status Report
産業事故発生メカニズムの解明と事故抑止のための生産システムの実験的検証
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15K01237
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
牧野 良次 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 安全科学研究部門, 主任研究員 (90415745)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹下 潤一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 安全科学研究部門, 主任研究員 (60574390)
赤井 研樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (20583214)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 産業事故抑止 / 生産システム / 経済実験 / ゲーム理論 / 確率論的リスク評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年以降主に化学産業において重大事故の発生が多発している。産業事故の抑止は持続的な企業経営ひいては持続的な経済を維持する上で喫緊の課題である。その理由は、産業事故による被害が従業員や周辺住民の死傷・周辺環境の汚染にとどまらず、設備破損や信用失墜に起因する企業価値の低下、サプライチェーンを通じた関連産業への影響拡大など、国民生活への波及効果が甚大であるからにほかならない。中央省庁による報告書や各社事故報告書において指摘されているとおり、本質安全設計や安全装置の導入といったハードウェアの改善による安全対策からは既に一定の効果を得ているとの理解のもとに、事故原因として人間によるエラーや不安全行動の発生(さらにはその背後要因としての安全文化)に着目しその発生メカニズムの解明にチャレンジしているというのが学術・産業界の現状である。 本研究は確率論的リスク評価と戦略的相互依存関係下での人間の意思決定を分析するゲーム理論とを融合した数理モデルに基づいた経済実験を行うことによって、直列生産システムや並列生産システムといった物理的生産システムの特性の相違が共同作業している人間の意思決定、ひいては生産システム全体の信頼性に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。平成27年度は被験者を工場の管理者役および従業員役の2グループに分け、管理者が労働災害リスク低減策を実施する場合と実施しない場合とで従業員の労働意欲がどのように変化するかを経済実験により検証した。その結果、管理者がコストを負担して労災リスク低減策をとった場合、従業員の労働量が増加する傾向が観察された。さらに、労働量の増加はリスク低減コストを補填するのに十分な生産量増加をもたらすレベルであったことから、管理者にとって労災リスクを低減することは利益の観点からも合理的であるケースがあることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1テーマ「人間によるエラーや不安全行動の発生メカニズムの理論的解明」では、Hausken(2002)による確率論的リスク評価とゲーム理論の統合モデルを基に、物理的な生産システムをモデルに組み込んだ上で、企業活動において現実に見られる諸要素が工場の従業員や管理職等の構成員の安全に関する意思決定および生産システム全体の信頼性に与える影響を理論的に解析するモデル構築を進めた。モデルファクターとしては上司-部下に代表される命令系統・同僚間の協力関係を考慮した。生産システムの特性と事故発生の不確実性を明示的にモデル化することにより、制度のあり方が人間行動の変化を媒介として生産システム全体の信頼性に及ぼす影響を分析する経済実験の基礎とすることができた。第2テーマ「事故抑止のための制度設計とその経済実験による検証」では、経済実験による事故抑止制度の有効性の検証を開始した。27年度は、被験者を工場の管理者役および従業員役の2グループに分け、管理者が労働災害リスク低減策を実施する場合と実施しない場合とで従業員の労働意欲がどのように変化するかを経済実験により検証した。上記の進捗は研究計画書に記載の予定と整合的であり、おおむね順調に進展していると自己評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでおおむね順調に進展しており、現段階で研究推進にあたって問題は生じていない。平成28年度も当初の研究計画にしたがって研究を進めるものとする。
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Causes of Carryover |
経済実験における被験者数(実績数)が当初予定人数と比較して少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に実施する被験者実験の事務手続きの業務委託費に組み入れる計画である。
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Research Products
(1 results)