2016 Fiscal Year Research-status Report
長期焼畑動態観測データを活用したインドシナ山地民の生活環境保全シナリオの構築
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15K01877
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹田 晋也 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (90212026)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 玲治 京都学園大学, バイオ環境学部, 准教授 (60378825)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 焼畑土地利用 / 東南アジア / インドシナ / 大陸部山地林 / 環境保全 / 山地民 / 長期観測 / シナリオ構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミャンマー・バゴー山地のカレン焼畑村落(S村)とラオス北部のカム焼畑村落(A村)の2か所で現地調査を実施した。 S村では2016年11月撮影の衛星画像を現地に持参し、住民との対話のツールとして活用しつつ、当年焼畑と住民林業用地を同定した。同村では2004年度から始められた「バゴー山地緑化計画」によって、村境の北辺を通る自動車道路沿いへの集落強制移転が始まった。移転が本格化した2006年には焼畑のほとんどが村域の北半分に分布し、焼畑筆数、面積ともに減少した。各世帯は、焼畑縮小による影響を木炭や竹などの林産物販売や2005年から始まった近隣での民間チーク造林地での作業や道路補修などの限られた賃労働収入で補ってきた。2009年3月からタイワの一斉開花がはじまり、2009年秋の収穫と2010年の播種ならびに収穫の際にネズミ食害により陸稲生産は大きな被害を受けた。ここでも造林や道路補修などの賃労働収入で生計が補われていた。2010年には村の北西部が民間チーク造林地となり、2011年には自動車道路沿いで電話が開通した。また同村では2010年ごろから小規模ながらも谷地田造成による水田水稲作がはじまった。谷地田周囲の斜面にはバナナ、マンゴーなどの果樹とともにチークやピンカドーが植えられ、現地では「水田アグロフォレストリー」と呼ばれている。2012年3月に成立した農地法では、水田と常畑を対象に土地利用証明書の発行を通じた小農土地保有の合法化が想定されているが、S村にも最近の土地政策変化の情報が断片的に伝わりつつあり、各世帯は将来の土地所有権確保を期待して「水田アグロフォレストリー」をすすめていた。 A村では郡農林事務所の協力を得てGPSを利用した焼畑区画マッピングを実施し、2005年から数えて12年間の焼畑耕作プロットを記録することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
S村では各世帯は将来の土地所有権確保を期待して「水田アグロフォレストリー」をすすめていた。2014年からは住民林業が導入され、いまではほとんどの世帯が住民林業の登録を望んでいる。住民林業の法的根拠は、Community Forestry Instruction 1995である。5世帯以上で構成されるユーザーグループが、住民林業の登録手続きをすれば、30年間の森林利用が認められる。S村では親族間で5世帯のユーザーグループを作って、住民林業登録を申請ており、実質的には個別世帯の林地となる。現在、S村では800ヘクタールの住民林業申請を準備中である。現在の総世帯数である96世帯が毎年0.8ヘクタールの造林を10年間おこなえば768ヘクタールとなるので、800ヘクタールはほぼそれに匹敵する。実際には、村人は毎年の焼畑地を「住民林業」用地として登録し、そこで自らタウンヤ造林を行っている。すなわち休閑地を「住民林業」という名のチーク植林地としているのである。これを10年も続ければ、新たな焼畑用地が不足して困るのではと村長にたずねてみたところ、住民林業用地は主に道路沿いや旧村付近なので、それよりも奥にはまだまだ焼畑のできる土地があるから問題はないという答えが返ってきた。一方で、村の小学校を卒業後に町の学校に進学しさらに職を得て村には戻ってこない若者も登場しはじめた。進学できずに村に帰ってきたものの、寄宿学生の時代にすでに町の生活を知っているので、ヤンゴンの縫製工場などに働きにいくものもいる。19世紀末のカレン領域制定から焼畑耕作が続くS村では、自給用陸稲生産という基本的な性格は変わらないが、道路通信事情が改善され、そして学校教育が普及する中で、市場経済との接合が少しずつ進行している。 A村では昨年度に報告したようにトウモロコシ連作と焼畑システムとのバランスが課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
焼畑土地利用の今後を考えてみると、「焼畑の集約化」と「焼畑の粗放化」の二つのシナリオが想定できる。A村で見られるようなトウモロコシの連作の場合、近隣のタイ北部のナーン県やベトナム北部山地のように見渡す限りトウモロコシ畑となっていく可能性がある。商品作の作目選択の動向によっては、チークなど木本が導入されることも考えられる。今後の焼畑での作物選択のシナリオは、森林推移仮説の二つの経路、「森林稀少化経路」と「経済発展経路」に関連付けてさらなる調査研究が必要である。 S村を考えると、底地は国有指定林である。しかし地上部にカレン領域が設定されている。その中で最近になって住民林業が認められた。こうした重層性は外部からの土地収奪に対して抵抗性がある。現在、普及しつつある住民林業は、指定林・カレン領域・住民林業という3層の構造が、国有林内での住民の林野利用という土地利用・保有の重層性をうまく追認している。外部からの土地収奪のリスクをなくす一方で、個々のユーザーグループは休閑地を造林地として確保している。外部からの土地収奪を抑制し、内部での重層的な利用保有関係を追認維持する「あいまいさ」を確保しながら調整する仕組みとなっている。 住民林業では、焼畑の休閑地が毎年次々と「チーク林」になってゆくので10年もたてばこれまでの焼畑休閑地のすべてが造林地となってしまう。日本で「林業前期作型」と呼ばれたと焼畑造林である。こうした経緯を経て、21世紀のバゴー山地では、非農就労と谷内田とチーク林経営とを組み合わせた農家林業が出現する可能もある。それはすでに隣接する北部タイで実現している景観である。「温暖化対策」はこうした経済発展に合わせた森林推移を後押しすることに役立つかもしれない。その場合に大切な点は、土地収奪などのリスクをできる限り抑えていくことである。
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Causes of Carryover |
計画調書では、車両借り上げに5万円を計上していたが、28年度の調査では共同研究をおこなっているカウンターパート側から部分的車両の便宜供与があったため、45,302円の次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画調書では、29年度から「専門的知識の供与」のための人件費・謝金が10万円と前年度から5万円減額されることになっている。しかし「専門的知識の供与」のための人件費・謝金は、研究のさらなる進展のためには必要であるので、そのために使用する。
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Research Products
(18 results)
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[Journal Article] Sleep quality among elderly high-altitude dwellers in Ladakh2017
Author(s)
Ryota Sakamotoa, Kiyohito Okumiya,Tsering Norboo, Norboo Tsering, Takayoshi Yamaguchi, Mitsuhiro Nose, Shinya Takeda, Toshihiro Tsukihara, Motonao Ishikawa, Shun Nakajima, Taizo Wada, Michiko Fujisawa, Hissei Imai, Yasuko Ishimoto, Yumi Kimura, Eriko Fukutomi, Wenling Chen, Kuniaki Otsuka, Kozo Matsubayashi
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Journal Title
Psychiatry Research
Volume: 249
Pages: 51-57
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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