2017 Fiscal Year Research-status Report
長期焼畑動態観測データを活用したインドシナ山地民の生活環境保全シナリオの構築
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15K01877
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹田 晋也 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (90212026)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 玲治 京都学園大学, バイオ環境学部, 准教授 (60378825)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 焼畑土地利用 / 東南アジア / ミャンマー / ラオス / インドシナ / 環境保全 / 山地民 / 長期観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
9月にラオス北部のカム村落(A村)で、また11月にミャンマー・バゴー山地のカレン焼畑村落(S村)で現地調査を実施した。A村では郡農林事務所の協力を得て、またS村では村民の協力を得て、GPSを利用した焼畑区画マッピングと土地利用に関する聞き取り調査を実施した。 S村では2002年より焼畑土地利用モニタリングを継続しているので16年間の焼畑耕作プロットを記録することができた。これらの情報を利用して、住民林業の普及が焼畑土地利用に及ぼす影響について検討した。ミャンマーでは、1995年のCommunity Forestry Instruction(住民林業令)公布以来、住民林業の導入が試みられてきた。同令は、5世帯以上で構成されるユーザーグループに30年間の森林利用を認めている。これまで住民林業は、山間部(シャン州)、ドライゾーン(マンダレー地域・マグエー地域)そしてデルタ(エーヤワディー地域)を中心に普及が進んでいたが、最近ではバゴー山地でも広がりを見せている。 住民林業では、焼畑の休閑地が毎年次々と「チーク林」になってゆくので10年もたてばこれまでの焼畑休閑地のすべてが造林地となってしまう。日本で「林業前作農業型」と呼ばれたと焼畑造林である。こうした経緯を経てバゴー山地の一部では、非農就労と谷地田とチーク林経営とを組み合わせた農家林業が出現する可能もでてきた。それはすでに隣接する北部タイで実現している景観を形作っていくと思われる。 世帯の生計をみると、近隣の民間造林地での作業や道路補修などからの現金収入が自給焼畑を補完する一方で、町の学校に進学しさらに職を得て村には戻ってこない若者も登場しはじめた。進学はできなくてもヤンゴンの縫製工場などに働きにいくものもいる。このように村の内外での非農就労が漸増している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A村とS村での現地調査と並行して、学会での報告と学術雑誌での成果報告をすすめた。 2017年6月3日に広島大学で開催された「東南アジア学会第97回研究大会 パネル発表 民主化のなかのミャンマー農山村」で「バゴー山地カレン村落と焼畑土地利用の変容 -15年間のモニタリング調査から-」と題した、また6月17日に奄美文化センターで開催された第27回日本熱帯生態学会年次大会では「ミャンマー・バゴー山地カレン村落での住民林業の普及と焼畑の変容」と題した報告をおこなった。さらにForest Ecology and Management誌にUnderground biomass accumulation of two economically important non-timber forest products is influenced by ecological settings and swiddeners’ management in the Bago Mountains, Myanmarが掲載された。また、奥田敏統編『温暖化対策で熱帯林は救われるか-住民と森林保全の相利的な関係を目指してー』(文一総合出版)の第2章第2節を分担執筆し「カレン領域における境界画定と住民林業」に関する考察をすすめた。 このような報告と発表を通じて、研究全体のとりまとめを進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
焼畑土地利用の今後を考えてみると、「焼畑の集約化」と「焼畑の粗放化」の二つのシナリオが想定できる。A村で見られるようなトウモロコシの連絡の場合、近隣のタイ北部のナーン県やベトナム北部山地のように見渡す限りトウモロコシ畑となっていく可能性がある。商品作の作目選択の動向によっては、チークなどの木本が導入されることも考えられる。今後の焼畑での作目選択のシナリオは、森林推移仮説の二つの経路、「森林希少化経路」と「経済発展経路」に関連付けてさらなる研究が必要である。 S村の底地は国有指定林である。しかし地上部にカレン領域が設定されている。その中で最近になって住民林業が認められた。こうした重層性は外部からの土地収奪に対して抵抗性がある。指定林・カレン領域・住民林業という3層の構造が、外部からの土地収奪を抑制し、内部での重層的な利用保有関係を追認維持する「あいまいさ」を確保しながら調整する仕組みとなっている。住民林業では、焼畑の休閑地が毎年次々と「チーク林」になってゆくので10年もたてばこれまでの焼畑休閑地のすべてが造林地となってしまう。日本で「林業前作農業型」と呼ばれたと焼畑造林である。こうした経緯を経てバゴー山地の一部では、非農就労と谷地田とチーク林経営とを組み合わせた農家林業が出現する可能もでてきた。それはすでに隣接する北部タイで実現している景観を形作っていくと思われる。「温暖化対策」はこうした経済発展に合わせた森林推移を後押しするかもしれない。その場合に、土地収奪などのリスクをできる限り抑えてゆく方策が必要である。
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Research Products
(13 results)