2016 Fiscal Year Research-status Report
ハイデッガーと京都学派を軸とする「場所的‐情意的知」の検討
Project/Area Number |
15K01999
|
Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
秋富 克哉 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (80263169)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ハイデッガー / 西田幾多郎 / 西谷啓治 / 場所 / ギリシア悲劇 / 構想力 / 自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28 年度の研究実績として挙げるべきは、欧語論文の執筆に複数携わったことである。まず、研究計画の一つに掲げていたハイデッガーのギリシア悲劇論を、近年刊行の『黒ノート』をもとに検討、これまで発表したソポクレス解釈とは別の悲劇作品『縛られたプロメテウス』を軸とするアイスキュロス解釈と絡めてドイツ語論文に仕上げた。これは、ドイツでのハイデッガー研究文献としてシリーズで刊行中の"Heidegger Jahrbuch"の『黒ノート』特集の巻に論文として寄稿したものである。この寄稿のために『黒ノート』を読み込めたことはもちろん、それと関連するテクストに触れられたことも、本主題をめぐる諸々の観点に気がつけたという意味で、科研研究計画の進展に大きな意義があったと思っている。 次に、西田哲学の場所論について、アメリカのSpringer社から刊行予定の西田幾多郎についての英語論文集の「場所」をめぐる章を担当、『善の研究』から論文「場所」に至る思想的展開を執筆、寄稿した。 海外出張としては、オックスフォード大学出版会から近く刊行予定の日本哲学ハンドブックに寄稿した論考との関係で、代表編者であるロヨラ大学のブレット・デービス教授を訪問する予定にしていたが、先方と私との日程調整がうまく進まないために断念、ドイツ出張に切り替え、次年度に予定していたヒルデスハイム大学のロルフ・エルバーフェルト教授を訪問し、ドイツでの研究状況についての情報収集を行なった。 その他、日本シェリング協会と立正哲学会での依頼発表で、それぞれ西田と西谷を扱った。また平成28 年度内に進めた仕事ではないが、平成28 年度に公刊された関連実績として、京都産業大学世界問題研究所を中心に進められたプロジェクトの研究成果『日本発の「世界」思想』(藤原書店)に「問題としての世界 ─ 西田幾多郎とハイデッガー」が掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「場所」をめぐるハイデッガー、西田、西谷についての個別研究は着実に進んでおり、ハイデッガーのギリシア悲劇論についても、上記のように新しいテクストの扱いを通して新たな解釈の観点を抽出、それぞれの思想がもつ場所論的性格と情意的知という本研究の主題についても考察を進め、個別の研究発表や論文執筆に活かすことができた。特に、依頼発表として要請された二つの成果は、当初予定していなかった主題をめぐるものであっただけに、それらを本研究課題と結びつけて取り組むことで、研究課題に含まれる別の側面に光を当てることが出来たことは大きな収穫であった。 しかし他方、それぞれの研究を通して主題の広がりを受け止めた分、付随する諸問題も新たに見出され、それらをどのように取り込んでいくかという課題に直面することとなった。とりわけ、上述のように、二つの論文が欧語論文であったために、執筆に予想以上の時間を費やしてしまい、研究全体をまとめる方向について言えばやや遅れていることを認めざるを得ない。特に、ハイデッガーのギリシア悲劇解釈の総括を行なおうとしていたことについては、上記のドイツ語論文が予想していた以上の展開をすることになったため、計画達成には至らなかった。とは言え、当初予定していた計画以外の個別成果を挙げられたことも事実であるので、それらの意義をしっかりと受け止め、これからの計画との連繋を取って行くことが重要であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度が最終年度であるだけに、上記のように全体をまとめる方向に進めていくことは必須である。 まずは、ハイデッガーのギリシア悲劇解釈について、出来るかぎりの集成を実行したいと考えている。その際、平成28年度にドイツ語論文として寄稿した成果は、分量的な制約によってかなり切り詰めた部分を残し、それ自体テクスト読解を通してより広く掘り下げられる内容を含んでいるので、その作業に取り組むことが、上述の修正作業に繋がると考えている。そのためには、『黒ノート』を含め、1930年代から40年代のテクスト全体を再検討することが必要不可欠である。この課題は、ハイデッガーにおける「場所的‐情意的知」を探る作業と不可分である。 次に、京都学派をめぐる「場所的‐情意的知」の展開とその集成については、西田哲学における「場所」思想の展開を追っていく一方で、特に西谷啓治と三木清について集中的に研究を進めるつもりである。新たな推進方策としては、西田哲学の「場所」の確立と展開の背後に『デ・アニマ』を中心とするアリストテレス哲学があり、それが西谷、三木の哲学の展開にもそれぞれ影響を与えていることから、アリストテレスの読解をベースにしてこれらの思想家の立場を検討することが、新たな研究の視点となる。そして、そのことがさらに、もう一方の軸であるハイデッガーのアリストテレス解釈と結びつくことで、本研究計画全体にとって大きな意義を持ちうると思われる。
|
Research Products
(6 results)