2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K02037
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 実 大妻女子大学, 比較文化学部, 教授 (70447671)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中国イスラーム / 劉智 / 朱熹 / 宋学 / 『希真正答』 / 『天方性理』 / 『天方典礼』 |
Outline of Annual Research Achievements |
前近代の中国において、君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友の五つの人倫関係を説く五倫概念が伝統的にあるが、五倫を専論する『小学』や『五倫書』では君臣と父子にたいする記述が圧倒的に多く、それにたいして夫婦関係については『礼記』にみえる婚礼に関する記述と、夫唱婦随などが説かれるにすぎなかった。一方、清初に生きた劉智の『天方典礼』をはじめ明末清初期のムスリムが著したイスラーム哲理書においても五倫という概念が使われるのだが、そこでは夫婦関係を五倫の先頭に置くものが散見されることがわかった。その根拠となるのが、人間は男女の夫婦関係から生まれるという自然学的生成論的観点である。夫婦関係を重視する思想自体は、『周易』以来、中国の伝統的な自然観でもあるが、『天方典礼』では「夫婦→父子→君臣→兄弟→朋友」という順序も関係性も「天理流行」つまり、本来的に定められた、そうしなければならない事柄であると解説する。この「天理流行」という概念は朱熹の思想の根幹にかかわるものであり、劉智がこの「天理流行」と、それと意味論的に連関するタームを使用しているところに、中国ムスリムの思考の有り様において宋学が伏流するさまがみてとれる。また『天方性理』の中国思想史的、イスラーム思想史的な位置づけおよび当該書の全体的な理解も進展している。今後は『希真正答』との関わりに焦点をあてて、明末清初期の中国イスラーム思想の一端を明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『希真正答』の解釈および分析に時間を割いているが、その他の中国イスラーム思想文献についての理解や思想史的位置づけが、確実に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
『希真正答』の解釈および分析に重点をおき、その他の中国イスラーム思想文献との関連を考察する。
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Causes of Carryover |
初年度に海外調査が実施できなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に海外調査を実施するとともに、関連資料の収集につとめる。
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