2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study on Muslim dialogic writings in Early Modern China
Project/Area Number |
15K02037
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 実 大妻女子大学, 比較文化学部, 教授 (70447671)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 希真正答 / 王岱輿 / 中国イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では中国ムスリム哲学者、王岱輿の弟子達がまとめた問答集『希真正答』を俎上にのぼし、その特徴を検討した。 まず『希真正答』の特徴は王岱輿と問答をする相手が、ムスリム以外に道士、仏僧さらには儒学を修めた郷紳といった中国の伝統的思想を網羅する人物であるところにある。ただし仔細に見ると『希真正答』は儒仏道の三強とイスラムからの全般的な問答集であるのにたいし、「客問」はムスリムと、「剰語」は仏教徒とのそれぞれ問答集となっているといえる。 さらに客の受け答えの描写にも特徴が見られた。『希真正答』と「剰語」では「客沈思云」「客不能答」「僧無言」「僧泣拜而去」といった客の言いよどむ様が表現されていて、回答者である王岱輿に説得、納得させられる形になっている。これはムスリムとの対話を中心とした「附録」には見られない。その「附録」では、身の回りにおける自然科学分野に関する質問などがなされ、モスクを中心とするコミュニティ内のムスリム達が、知識人としての王岱輿に日常において気づく疑問について質問したものをまとめたものであるといえる。 また問答という形式の意味を考えるに、「又序」が引用する「経に云わく、正道は種子の如く、問答は滋生の若し」とあるように、ムスリムとしては問答によって成長していくという思考が基本にある。その考え方は「又序」が冒頭で引用する『論語』雍也篇「夫れ仁者は、己れ立たんと欲して人を立て、己れ達せんと欲して人を達す」に接続する。この孔子の言葉を体現するのが本書『希真正答』である、と「又序」はいう。こうした「立人……達人」のために問答が求められた。『論語』がそもそも問答を含む対話集であった。そして、「時の士、唯だ文字に泥み、真知に務めず」(「又序」)という状況に対し、文字ではない問答(結果的にはその問答を文字化したものを読むことになるとはいえ)によって真の知を追い求めようとしたといえる。
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