2015 Fiscal Year Research-status Report
ルネサンス期のフィレンツェにおける芸術家と都市の称揚に関する研究
Project/Area Number |
15K02096
|
Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
石澤 靖典 山形大学, 人文学部, 准教授 (20333768)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | フィレンツェ美術 / 美術家列伝 / ヴァザーリ / アントニオ・ビッリの書 / アノニモ・ガッディアーノ稿本 / アルベルティーニ |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ヴァザーリ以前に書かれたフィレンツェ美術に関する歴史記録の中で、質と量の両面においてとくに重要視されるのは、「アントニオ・ビッリの書」と「アノニモ・ガッディアーノ稿本」(いずれもフィレンツェ国立中央図書館所蔵)である。平成27年度は、これら二点について過去に編集された校訂本を揃えると同時に、各テキスト間に見られる異同を整理した。とくに前者は、ペトレイ本とストロッツィアーノ本という2編のいずれも不完全な稿本によって伝えられているが、それらの相互関係について先行研究を踏まえて検証した。こうした予備的調査をもとに「アントニオ・ビッリの書」を構成する二稿本の試訳を完了し、現在は注釈を付す作業をおこなっている。「アノニモ・ガッディアーノ稿本」については翻訳作業の途中であり、完了までには今しばらく時間を必要とする。 (2)15世紀のフィレンツェにおけるダンテ再評価の動きは、詩人を「都市の芸術家」と位置づけ、その様式をトスカーナの地域性に結びつけた点で、次世紀における美術家称揚のレトリックに一つのモデルケースを提供したと思われる。こうした一連の流れに掉さす作品として、サンドロ・ボッティチェッリの《サン・バルナバ祭壇画》(ウフィツィ美術館蔵)を考察した。とくに画中のダンテ『神曲』にもとづく銘文に着目し、それが同時代のメディチ家や市政庁による、アウグスティヌス派保護の施策とダンテ称揚の文化運動にかかわるものであることを明らかにした。その成果は、論文「ボッティチェッリ作《聖母子と四天使と六聖人(サン・バルナバ祭壇画)》―― ダンテ『神曲』銘文と聖母信仰」において発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)予定していた「アノニモ・ガッディアーノ稿本」の翻訳・註解作業は、扱う美術家の数が多く、時代も広範囲にわたるため、当初予想していた以上の文献の渉猟が必要となり、完成にいたっていない。今年度いっぱいを目途に計画を進める予定である。 (2)年度末に予定していた海外調査は、ヨーロッパ情勢の悪化と日程調整の都合から中止せざるをえず、次年度夏期に遂行するよう予定を変更した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)「アントニオ・ビッリの書」および「アノニモ・ガッディアーノ稿本」の翻訳・註解の作業を完了させる。 (2)すでに公刊したアルベルティーニ『覚書』に関し、都市美術案内書としての性格を具体的に分析するための材料として、記載された美術作品についての詳細な作品地図を作成する。 (3)国家の詩人としてのダンテ評価と美術論との関係を、通時的かつ包括的に検証する作業を継続する。 (4)これらの成果を研究成果報告書として発表する。
|
Causes of Carryover |
年度末に予定していた海外調査が、ヨーロッパ情勢の悪化と日程調整の都合から中止せざるをえず、次年度夏期に遂行するよう予定を変更したため、旅費に割り当てていた予算をが繰り越しとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の夏期に海外調査をおこない、不足していた海外での資料収集を補完する。この調査のために、前年度に旅費として割り当てていた予算を使用する。加えて冬季にも海外調査をおこなうが、こちらは当初予定していた28年度分予算を使用する。
|