2016 Fiscal Year Research-status Report
旧満洲亡命ロシア人の文学的表象に関する比較研究:日本語文学を中心に
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15K02263
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
伊賀上 菜穂 中央大学, 総合政策学部, 教授 (10346140)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 亡命ロシア人 / 旧満洲 / 文学 / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、「満洲国」時代(1932-1945)に日本人作家が文学作品の中に描いた旧満洲亡命ロシア人の表象を分析することで、日本人の対亡命ロシア人観の特徴とその通時的変化を考察することを目的としている。 日本語作品の調査・分析にあたっては、前年度に引き続き「女性」に注目したが、今年度は特に民族間結婚、混血のテーマを取り上げた。その結果、亡命ロシア人と日本人との交流を描く戦前の作品には、台湾先住民や中国人、朝鮮人との関係を描く作品と比較して、民族間結婚の描写がきわめて少ないことがわかった。報告者はその理由を戦前の日本における民族政策の揺れや「人種」観と関連付けて考察し、9月24~25日開催のヨーロッパ日本研究協会第2回日本会議(於神戸大学)で報告した。 7月9日には、生田美智子氏(大阪大学名誉教授)との共催で、大阪大学で国際シンポジウム「女たちの満洲とその後」を開催した。報告者は第1部「ロシアから見た旧満洲ロシア系住民:文学・映画の中の表象」を組織し、トロント大学研究員のオリガ・バキチ氏と同志社大学教授イリナ・メリニコワ教授に、それぞれ「ハルビン・ロシア系女性詩人が描いたエミグラント女性像」「文学・映画に現れた亡命ロシア人の表象」と題した報告を依頼した(ロシア語)。これにより、本課題で比較対象としているロシア語文学作品、映像作品における亡命ロシア人表象の特徴について、理解を深めることができた。 この他、8月月31日~9月9日には中国東北部、内モンゴル北部における現地調査に参加し、小説の舞台となった地域の状況を確認するとともに、当時を知る現地の方々にインタビューを行った。この調査には様々な分野の専門研究者が参加したため、知識と情報を複合的に獲得することができ、たいへん有益であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウェブ上でのデータの公開作業は遅れ気味であるが、資料収集は順調に進んでいる。ロシア語文学およびロシア語映像作品に関する調査は、シンポジウムの開催をとおして順調に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き関連資料の収集に努めると同時に、研究課題最終年度として、成果のとりまとめを進める。第2次世界大戦後に刊行された日本語作品は極めて多く、収集と分析に時間がかかるため、1930年代~1945年までに発表された作品を優先的に扱いたい。 具体的には、過去2年間に実施してきた亡命ロシア人女性の文学的表象分析を、現在進行中の英語論文集出版プロジェクトの一論文として執筆する予定である。またロシア語での情報発信のために、ロシアや旧ソ連圏で開催される国際会議(ウラジオストク、モスクワを予定)に参加し、旧満洲での日本語文学の状況について口頭報告を行いたい。これと同時に、収集した文学作品のデータベース化とウェブ上での公開準備を進める。またデータベース情報に関して、雑誌『セーヴェル』で解説論文を掲載する考えである。 関連作品の収集については、日本国内での調査と並行して、ロシア連邦での調査を予定している。モスクワではロシア国立図書館や在外ロシア館などで資料調査を行うと同時に、亡命ロシア人研究を行う現地研究者と情報交換を行う。ハバロフスク地方国立文書館では、白系露人事務局史料を分析することで、現地白系ロシア人社会の実態を調査する。
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Causes of Carryover |
1~2月に校務の関係で、海外調査のための十分な期間を確保できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外調査の旅費に使用する。
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