2017 Fiscal Year Research-status Report
アイルランドのナショナル・アイデンティティ:独立戦争から紛争まで
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15K02364
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
及川 和夫 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50194056)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 重夫 早稲田大学, 法学学術院, 名誉教授 (00130873) [Withdrawn]
三神 弘子 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (20181860)
小林 広直 一橋大学, 大学院法学研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD) (60757194)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナショナル・アイデンティティ / W・B・イェイツ / パトリック・カヴァナー / 北アイルランド紛争 / 演劇 / トマス・マーフィー / ジェイムズ・ジョイス / トマス・キルロイ |
Outline of Annual Research Achievements |
及川はイースター蜂起以後、カトリック系住民からの批判を浴び、新プラトン主義を奉じるアングロ・アイリッシュとしての立場を鮮明にしていった。この過程をイェイツ協会の大会で研究発表した。またカヴァナーは農民であった出自を活かして、『大いなる飢餓』で農村の実像を内側から描いた。これを論文で検討した。シンポジウムではフリールの『ルナサの踊り』を通じて1930年代の農村を論じた。またこれまでの数年の研究を単著にまとめた。 三神は、以下の2つの視点から研究を進めた。①アイルランドのナショナル・アイデンティティ(以下NI)とカトリシズム。昨年度、通史的に概観した、国とカトリック教会の関係性について、本年度はトム・マーフィーの1975年の作品『サンクチュアリー・ランプ』を取り上げ、1975年の段階で、マーフィーが示した教会制度に対する懐疑的視点が、いかに今日の時代を先取りしていたか、一方、そうした中でいかに個人の宗教性を追求していたかを論文として発表した。 ②北アイルランド紛争(1969-1997)の最中、共同体の中で演劇が果たした歴史的役割について検討すると同時に、9.11以降、世界における紛争の総括が、北アイルランドという文脈でどのように進められているか検討し、シンポジウムで口頭発表した。 小林は、今年度において次の2点から研究を行った。1点目は、ジェイムズ・ジョイスとNIの関連から、著作権の切れた1992年に新たにジョイスの主要作品5作がペンギン版で出版されたことの受容理論的な意義を検討した。もう1点は、劇作家トマス・キルロイによる『ダブル・クロス』(1986)において、NIがどのように表象されているかを問うことであった。前者については、2018年1月に行われたシンポジウムで報告を行い、後者については作品分析や資料収集に時間を取られたため、来年度に論文化を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
及川はここ数年の研究を単著『アイルランド詩のナショナル・アイデンティティ―The Harp & Green』にまとめ、一区切りをつけた。当初はアイルランドから研究者を招いて国際シンポジウムを開催する予定であったが、日程調整がうまくいかず断念した。その代りに2018年1月27日に及川、三神、小林3名に、青山学院教授・佐藤亨氏、成城大学教授・海老島均氏、青山学院准教授・千葉優子氏、成城大学講師・山下理恵子氏を加えて、早稲田大学アイルランド研究所主催でシンポジウム「アイルランドのナショナル・アイデンティティ―自由国成立から北アイルランド紛争まで」を開催した。 しかし当初の研究分担者であった清水重夫氏の闘病とご逝去によって研究に空白が生じたことと、及川の単著の出版が遅れたため、研究期間の1年延長を行った。 三神の上記のテーマ①(アイルランドとカトリシズム)に関する分析、検討は、本研究の枠組みの中ではひとまず完結したと考えられる。テーマ②に関して、紛争時演劇が果たした歴史的役割の分析、検討については、大枠で完結したと考えられるが、ポスト9.11の視点で見る、21世紀における北アイルランド紛争の演劇的再評価については、さらなる発展が期待できる。 小林は、当初予定していたキルロイ論を完成させることはできなかったものの、シンポジウムの準備のために、ジョイスの受容史について調査する機会を得たことは大きな収穫であった。とりわけ、ナショナル・アイデンティティについての古典的研究所であるIrish Identity and the Literary Revival (G. J. Watson著、1979年)を読み、それが90年以後のポストコロニアル的読解の布石になっていることを確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
及川は5月に完成した著書をイギリス・ロマン派学会、日本イェイツ協会、IASIL JAPANから厳選した会員141名、学内の同僚らに配布して、研究の成果をモニターする。また全国の国公私立大学から厳選した英文学関係の学科が充実している51大学の大学図書館に著書を寄贈し、まだ面識のない研究者、学生、未来の研究者、学生に資することを目指す。 また 7月に上智大学、東京大学駒場で開催される国際学会Romantic Regenerationsで、W・B・イェイツをイギリス・ロマン主義、アイルランド・ロマン主義の両面から検討した ‘W. B. Yeats: An English and/or Irish Romantic Poet’を発表する。またブライアン・フリールの作品を通じてアイルランド自由国成立以後の農村像と社会の変容を分析した論文を執筆する予定である。 三神はテーマ②に関して、ポスト9.11の視点から、リチャード・ビーン(Richard Bean)『ビッグ・フェラー』(Big Fellagh)(2010)、ジェズ・バターワース(Jez Butterworth『フェリーマン』(The Ferryman)(2017)といった21世紀になって書かれ上演された作品に焦点をあて、北アイルランド紛争を演劇的にどのように総括できるかを分析、検証し、論文にまとめ発表する予定。 小林は、平成30年度中にナショナル・アイデンティティの観点から上述のトマス・キルロイ論、及びジェイムズ・ジョイスの受容史論を執筆する予定である。前者はIASIL JAPANの『エール』、後者は早稲田英文学会『英文学』への論文投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
今年度中に研究成果報告の書籍を出版する予定であったが、出版社の事情などで出版が今年度中に間に合わなかった。書籍は出版したのち、関連学会の日本イェイツ協会、IASIL JAPAN、イギリス・ロマン派学会などの会員、早稲田大学の同僚に送付して、研究成果に対する評価をモニターする。 また英文学、アイルランド文学の講座を有する全国の国公立私立の51大学の大学図書館に送付し、面識のない研究者、将来の研究者の利用に期待する。 繰り越した額は書籍の印刷製本と学会関係者、大学図書館への発送費に充てる。
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Research Products
(7 results)