2015 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア演劇とエリザベス朝・ジェイムズ朝の説教との比較文献学研究
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15K02372
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
鶴田 学 福岡大学, 人文学部, 教授 (60352225)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シェイクスピア / エリザベス朝 / 演劇 / 説教 / 修辞学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ロンドンの壁の外にあって享楽な市場主義的原理に支配されていた公衆劇場と、壁のなかにあってピューリタン・イデオロギーを発信した説教との関係を見直し、シェイクスピア演劇が聖俗交錯する特殊な言語空間を形成していたことを解明しようとしている。当時の説教を研究する過程から派生して、修辞学について調査したところ、『ハムレット』の有名な'To be, or not to be'の独白に関してこれまで英米の学者も含めてだれも認識していなかったキケロの修辞学の影響があることを突き止めた。 その結果は、イギリスの伝統ある学術誌であるNotes & Queries 誌(Vol.260 No.4) Dec. 2015に、Hamlet's 'Name of Action'―A Ciceronian Legacy?として発表された。本研究は演劇と説教との関係を文献学的に探究し、そこから文化史へと発展するという予見から開始したが、説教研究から派生して16世紀英国の修辞学を調査する過程で、N&Q 誌に採択される国際的な水準の成果が生まれた。なお、このNoteに続く新たなNoteを執筆投稿しており、それは2016年度のN&Q 9月号に掲載される予定である。 また、シェイクスピア時代の説教と『ハムレット』との因果関係を示唆する論文、「ハムレットと聖ポール寺院の庭―記憶を巡る父子の物語」を2015年12月に福岡大学人文論叢に発表した。 総じて、当初の見込みであった「演劇と説教」からはやや比重が「修辞学」の方へ動いているものの、エリザベス朝演劇の文化論に波及する学際的な、国際的水準の研究という意味では、予定通りに研究実績が挙がっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シェイクスピア演劇に関して文化・歴史の領域に横断的に跨る学際的な研究を国際的な水準で遂行することを目的として本研究は出発した。その目的は具体的な形となって、部分的に達成している。研究の方向性が説教師の宗教言説から修辞学全般に広がっているが、いずれは当初の目的であった説教へと回帰する方向で準備を整えている。特に『ハムレット』に関しては、説教と修辞学という視点から清新な論考が生まれている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画ではエリザベス朝・ジェイムズ朝の演劇と説教との文献調査を出発点に考えていたが、説教師の語りを分析するために参照した修辞学への関心から、意外な方向でシェイクスピア演劇の文化的・歴史的な意義を解明する糸口が発見された。今後は、説教の分析に重点を移しつつ、やはり当初の目的であった歴史・文化の領域に踏み込む学際的な研究を国内外の広く認められた査読付きの学術誌に掲載していくことで高度な研究成果を目指して進めて行く方策である。
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Causes of Carryover |
予定していた図書購入を未刊などの理由で先延ばししたために年度内の予算を執行できなかったために図書購入費が少なくなった。また、予想に反して文具やコピーなどの費用を執行しなかったためにその分も執行額が減ったが、次年度以降に有効的に活用する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究に必要な演劇・宗教・修辞学関係の図書の購入に充てんする。
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Research Products
(2 results)