2015 Fiscal Year Research-status Report
引用の文化史ーフランス中世から20世紀文学における書き直し(リライト)の歴史
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15K02387
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Research Institution | Shirayuri College |
Principal Investigator |
篠田 勝英 白百合女子大学, 文学部, 教授 (20129894)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福田 耕介 白百合女子大学, 文学部, 教授 (30292741)
越 森彦 白百合女子大学, 文学部, 准教授 (30509071)
海老根 龍介 白百合女子大学, 文学部, 准教授 (40439500)
辻川 慶子 白百合女子大学, 文学部, 准教授 (80538348)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 書き直し(リライト) |
Outline of Annual Research Achievements |
海老根、辻川が中心になって、白百合女子大学大学院のリレー講義「芸術におけるリライト」を企画・運営し、28年5月に弘学社から出版予定の講義録的論集を編集した。海老根、辻川、篠田は講師として参加し、また論集にも執筆したが、さまざまな時代・文化・ジャンルにおける「リライト」の事例をとおして、この主題をマクロの視点から把握することで、本研究を学術的文脈の中に精確に位置づけられた。 2度の海外調査で、辻川はフランス国立図書館にて、ロマン主義時代のリライトの実態を明らかにすべく、同時代の証言や批評を精査し、越は論争的文脈におけるルソーのリライトの実践をカリカチュアという視点から探るため、パリ第1大学で日本では参照の難しい博士論文を精読した。辻川は調査の成果を、口頭発表ならびに論考の形で、すでに一部発表済みであり、越も発表を予定している執筆済み論考に反映させている。 篠田は前記論集に中世の作品『薔薇物語』における「書き継ぎ・書き直し」に関する論考を寄せ、16世紀の作家マルグリット・ド・ナヴァールの、コントラファクトゥム(世俗歌謡から宗教歌への「替え歌」)を含む「シャンソン・スピリチュエル」6篇の翻訳・註解も完成させた。海老根は18世紀の思想家ルソーの作品の19世紀の詩人ボードレールによるリライトに関する口頭発表を行い、福田は20世紀の小説家モーリアックの小説における引用のイメージを検討する論考を執筆した(28年度の発表を予定)が、これらはすべて、関心を持つ作家や作品の置かれた歴史的・状況的文脈を各人が精密に捉え、それらを総合する「引用の文化史」を協力して構築するという目的に向けての、着実な進展と位置づけられる。 また福田と海老根は、フランス文学の日本への受容に関する口頭発表や論考執筆も行ったが、作品の異文脈への移し替えという意味で、これらも本研究における基礎的探求と見なしうる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度の目標は、基礎的文献資料の収集・整理を行ったうえで、代表者・分担者が各々の担当分野に関する調査を進め、「フランス文学におけるリライト」に関する通時的・総合的なパースペクティヴを確立するための礎を築くことであった。 中世ならびにルネサンス期を担当する篠田は、写本や古書を整理するためのパーソナル・コンピュータ一式を購入し、資料の収集・解析を積極的に行った。辻川と越は、27年度夏季と春季にパリで集中的に文献調査を実施し、分析の成果の一部を口頭発表や論考(公刊予定も含む)に反映させており、今年度に実施予定のさらなる調査についても詳細な計画が立った。海老根、福田は資料収集こそ積極的に行うことができなかったが、手持ちの資料をもとに、論点と今後必要な調査の洗い出しを終えており、導入的研究成果を一部発表・執筆しはじめている。28年度には、繰越した資金をも活用して、有効な資料収集・文献調査を行う体制が整った。 成果と見通しの共有は研究会で行うとしていたが、海老根と辻川が中心となって、白百合女子大学大学院のリレー講義「芸術におけるリライト 」を企画・運営する機会を持てたため、開催の必要はなくなった。フランス文学に限らず、さまざまな作家・ジャンル・時代を専門とする研究者を講義に招き、それをもとに論集を編集したが、この作業の過程で知見をともに吸収できたことで、「主題のマクロの把握と研究の焦点化」という、当初研究会に求めていた目的はほぼ達せられたからである。研究会用当初予算は、資料収集・調査、ならびにそのための機器(スキャナー等)の整備に利用し、より充実した成果を得た。リレー講義と提携して開催したスイス、ヌーシャテル大学教授のダニエル・サンシュ氏の講演会「リライトとパロディ」については、講演謝礼を大学予算から得ることができたものの、講演の準備・補助に関する人件費は、本研究費から支出した。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は、27年度に引き続き、代表者・分担者各人が独自の調査を進める一方、その成果をより詳細に共有し、「フランス文学におけるリライト」という主題について、通時的・総合的パースペクティヴを確立するために、さらに必要な作業の洗い出しと有効な論点の設定を共同して行っていきたい。 当初の計画では、28年度の研究会は2回、別々の主題を設定したうえで、それぞれ1名の外部講師を招いて行うことにしていたが、各人の個別調査が順調に進んでいる現状に鑑みて、通時的・総合的パースペクティヴ確立の前段階のケース・スタディという位置づけで、一つの主題の時代による現れの変遷を2名の外部講師の発表を通して検討する形で、2月ないし3月に1回開催することにした。テーマは「ジャンヌ・ダルクに関するリライトの変遷」で、講師はすでに依頼・承諾済みである。現在、日程調整の最終段階にある。 資料については、必要なものの洗い出しをまず行ったため28年度に繰越した予算も含めて、福田を中心に、とくに20世紀の文献を集中的に収集・分析する。また8月または9月に海老根と辻川が、それぞれパリにおける実地調査を行う。海老根は19世紀の詩人ボードレールのリライトについて、何をリライトしたかではなく、どうリライトしたかが時代の文脈においていかなる意味を持つかを探るため19世紀の文献を調査し、辻川は27年度に引き続き、ロマン主義時代のリライトの実態把握のために同時代の証言・批評を集中的に読み込むことにしている。篠田、越は27年度の成果を踏まえた調査、分析を進める。 さらに、29年度に予定しているシンポジウムに向けて、課題や論点が絞られてきているので、代表者・分担者の間でその共有を徹底し、28年度の早い段階で、日程の設定とパネリストの人選を行う予定である。
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Causes of Carryover |
夏期に予定されていた越の海外調査を春期に行い、その会計処理が年度をまたいだため、旅費の一部の支出が28年度に持ち越された。また物品費についても、スキャナーならびにプリンタ・インクを27年度末に購入したため、会計上は28年度の支出となる。同じく物品費のうち、文献収集にかかわるものは、おもに20世紀のリライトに関する必要資料の洗い出しに検討を要したため、27年度はリストアップにとどめ、28年度に繰越し額を含めてまとめて購入することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「理由」で記したとおり、「旅費」(越の海外調査)と「物品費」(スキャナー、プリンタ・インク)の一部に関しては、会計処理上の繰越しであり、すでに適正に使用済みである。文献収集については、おもに20世紀のリライトに関して、27年度はその洗い出しに時間を要したため、28年度に必要なものをまとめて購入することとしている。
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Research Products
(11 results)
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[Book] Comment la fiction fait histoire, Emprunts, echanges, croisements2015
Author(s)
Noriko Taguchi, Christian Jouhaud, Katsuya Nagamori, Makoto Masuda, Kenta Ohji, Yoshihiko Sugimoto, Rimpei Mano, Keiko Tsujikawa, Didier Chiche, Gisele Seginger, Judith Lyon-Caen, Kosei Ogura, Kazuyoshi Yoshikawa, Yuji Murakami, Michael Ferrier, Akihiko Kubo, Nao Sawada, Yasuko Chijiiwa etc.
Total Pages
354
Publisher
Honore Champion
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